スギ造林木の木部形成パターンと年輪構造 : クモトオシとヤブクグリについて
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概要
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木材細胞の性質は,樹幹の肥大生長と関係していることが報告されている.そこで, この研究では,特に年輪構造と林木の肥大生長速さを木材の性質と関連させてとりあげている.すなわち,スギの在来品種の中から,生長が速いことで知られているクモトオシと,生長が比較的遅いことで知られているヤブクグリを選び,季節の変化に伴って生じる形成層活動の経過,始原細胞から分裂した細胞が仮道管へ分化していく経過,および年輪構造が形成される経過のそれぞれが,林木の生長速さの違いによってもたらされる影響を検討している.この研究の検討の賠果,形成層の分裂活動の開始時期はクモトオシ,ヤブクグリの両品種ともに,4月上旬であった.晩材形成の開始時期はクモトオシで7月ないし8月,ヤブクグリで6月上旬であった.形成層分裂活動の終了時期はクモトオシで8月下旬から9月上旬,ヤブクグリで6月下旬から7月上旬であった.形成層始原細胞の長さには,季節的な変化が認められず,形成層始原細胞の長さと仮道管の長さの両方で,クモトオシの方がヤブクグリよりも大きな値を示した.細胞壁率の推移は,クモトオシとヤブクグリとで,異なるパターンを示した.また,晩材率は,両品種間に差を認めた.以上のことから,木部形成の過程と結果には,生長の速さの相違によってもたらされる影響があることが確かめられた.しかし,木部形成の季節的な推移パターンや年輪構造には,同一品種内での生長の速さの違いよりも,品種の違いによる効果の方が大きく影響していることがわかった.In this study the effect of growth rate on xylem formation of Sugi (Cryptomeria japonica D. Don) was examined, and the intrinsic wood properties of cv. Kumotohshi, the fast-growing cultivar, were compared with cv. Yabukuguri, the slower-growing cultivar. It may be assumed that the cambial cell division of all sample trees commenced early in April and that late wood formation begins early in June for cv. Yabukuguri and early in August for cv. Kumotohshi. Early wood formation was kept on for about 2 months for cv. Yabukuguri and for about 4 months for cv. Kumotohshi, while late wood formation was kept on for a month in both cultivars. The effect 0 f the difference between cultivars was recognised in cell wall area percentages in an annual-ring: the late wood percentages of cv. Yabukuguri were two times as large as those of cv. Kumotohshi. The cambial initial cell length changes were little difference during the period of cambial activity within a cultivar: 2.0~2.5 mm for cv. Kumotohshi and 1.5~2.0 mm for cv. Yabukuguri. However the differentiated tracheid lengths ranged 2.3 (early wood) ~3.8 mm (late wood) for Kf-samples, 2.2~3.4 mm for Ks-samples, 1.4~2.8 mm for Yf-samples, and 1. 3~2.6 mm for Ys-samples. It is assumed that the site quality and the hereditary nature have remarkable effects on the xylem formation and the intrinsic wood properties.
- 九州大学の論文
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