多様化するメディアと教養 (<特集>教養の解体と再構築)
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概要
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教養という概念の意味は非常に大きく、かつ捉え方によっては曖昧でもある。しかし、大まかに見るならば、専門的かつ高度な知的活動の結果として身に付く「深さの教養と、意図的にアレンジされた方法によって身に付けられる広範囲にわたる基礎的知識の集合としての「広さの教養」とにわけることができる。わが国では、西欧文明の意図的な移入による社会の近代化という歴史的条件により、大学が長い期間にわたって教養の独占的な集積地、発信地として機能してきたが、大学に集積され、大学から発信されてきた教養は、まず深さの教養から、やがて意図的定型的に伝達される、完成した近代人の基礎としての教養へと姿を変えながら、体系化され、制度化されてきた。 そうした教養も、近年、大きな変動の真中にある。その最大の要因の一つがメディアをめぐる変化である。メディアは教養のあり方に大きな影響を与える。というのも、教養には不可避的に、他者の過去の精神活動の成果を伝達されることによって、あるいはそうした成果を再構成、結晶化することによって形作られるという要素が付与されているからである。その意味で、あらゆる教養は、外界とのコミュニケーションによって成立していると規定することができる。これまで人類が達成してきたコミュニケーションにおける技術革新が教養そのものの量と質のあり方に重要な影響を与えてきたことの背景には、そういった教養とメディアとの関係があったのである。 今日、われわれの周囲では、著しい技術革新の波が日々メディアそのものを変えつつある。それを伝達の手段とせざるをえない教養も、当然のことながらそこから強い影響を受けている。その影響は、さしあたり現下の教養の危機、という形で表出している。危機はけっして軽微ではなく、深刻である。しかし、われわれは、その中に、これまで大学の古い枠組みによって統制され、抑え込まれて、長い間更新すらされなかった教養が、新しい時代や社会の需要に応えて変わっていく契機も見出すことができるのである。独占的ではなくなったものの、やはり最大の教養集積、発信機関であり続ける大学にとって、新しい教養の形を模索することは、当面の最も重要な課題であるといってもけっして過言ではない。
- 日本教育学会の論文
- 1999-09-30
著者
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