中学生における家庭生活の価値意識の形成(第2報) : 親のイメージとの関連を視点として
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概要
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第1報に続き, 家庭生活の価値意識の形成要因として着目した親との関係を親のイメージに求め, 家庭生活の価値意識と親のイメージとの相関分析を行った。得られた結果は以下に要約される。1)家庭生活に関する内的・情緒的な価値意識の形成は, 親との親密度・信頼度による影響が大きく, とりわけ, 父親の信頼度による影響が最も大きい。2)親との関係が, 外的・情緒的な価値意識, 内的・知的な意識価値, 外的・知的な価値意識の育成に及ぼす影響は一部にとどまる。これらの結果は, 家庭生活領域における学習内容および学習方法の検討にあたり, 家庭生活における外的な側面への価値意識の形成を促すことを視点とすることの必要性を示唆するものである。第1報において明らかにされた外的価値意識の不安定は, この必要を裏づける資料となると考える。同時に, 家庭生活領域の情意評価における内的・情緒的意識の扱いなどについても, 参考となる示唆が得られたと考える。以上, 第1報・第2報に基づいて, 家庭生活領域の学習指導に関する総合的な考察を試みると, 親との関係にみる家庭状況によって内的・情緒的価値意識が十分に培われている子どもの場合には, 家庭生活領域の新たな学習内容を受け入れて価値意識がより高まる可能性が高いものの, 体験的な学習はほとんど価値意識の高まりをもたらしていない。一方, 内的・情緒的価値意識が十分に培われていない子どもの場合には, 前半の家族学習の効果は表れにくいものの, 体験的な学習を経て, 学習内容と関係なく全般的に価値意識が高まっている。この事実は, 領域履修による総合的な学習効果として捉えられる反面, 家庭状況と関わりなく, 発達段階として家庭生活の価値意識が形成される可能性を示すものである。したがって, 多くの家族の授業にみられる"家族の思いやり"を道徳的に取り上げる授業は, 評価の対象がきわめて曖昧な内的・情緒的価値意識であるだけに多くの問題をはらんでいる。家庭生活領域においては, 家庭状況に依拠せず, 発達段階として形成される可能性も低い外的な価値意識を培う学習内容あるいは学習方法をより積極的に導入することが, 評価の側面から考えても妥当であると考えられる。それは方向性として領域新設の意図に添うものであろうし, 何よりも子どもにとって新たな価値意識の形成をもたらす可能性を高めることが優先されなければならないと考える。第1報・第2報を通じて, 本研究は附属校における事例的な実践授業に基づく分析結果に過ぎず, グループ比較の条件設定にも曖昧さが残ることを認めざるを得ない。親との関係に関する調査も, イメージ調査として子どもの側からのみ捉えているに過ぎず, 十分とはいい難い。今後さらに, 一つのグループの学習を時系列的に追跡することで, より確かな形で検証を行うとともに, 外的価値意識を効果的に高める学習指導のあり方などについて検討を重ねる必要があると考える。最後に調査にご協力いただきました岩手大学教育学部附属中学校教諭小笠原洋子氏および生徒の皆さんに深く感謝の意を表します。
- 日本家庭科教育学会の論文
- 1997-04-20
著者
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