高等学校家庭科の調理実習にみる役立ち感
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
本報告は,家庭科の学習意欲喚起の過程において媒介となって学習意欲の拡大とかかわる「役立ち感」に着目し,役立ち感をより詳細にとらえ,役立ち感と楽しさとの関係を明らかにすることを目的とし,高等学校の調理実習をとおして生徒の意識分析を試みたものである。分析結果は以下に要約される。1.調理実習前は生徒の90%以上が調理実習の役立ち感を肯定的にとらえており,調理実習後は80%以上の生徒に役立ち感に関する意識変容がみられた。意識変容は「応用・実践意欲」および「知識・作り方」に関連する項目群を軸として意識が具体化する形で認められた。2.実習後の役立ち感は体験的成長あるいは知的成長の自己認識としての役立ち感と将来への役立ち期待としての条件的役立ち感に分類された。3.体験的成長の自己認識としての役立ち感である「自分自身の可能性の拡大の実感」は,他の役立ち感とは異なる楽しさ感をもたらしていた。このプロセスを役立ち感の質が楽しさの量を規制する「役立ち感と楽しさの相乗効果」としてとらえることができた。また,調理実習では快さの体験としての「おいしさ」が前提にあり,体験的な学びとしての役立ち感の質が「おいしさ」と同列の楽しさとは異なる楽しさを相乗的に増大させていく過程をとらえることができたと考える。しかしながら,本調査の対象校は進学校であることから,調理実習を1時間の枠の中で実施しており,グループ作業による「協力できた喜び」をとらえることはできなかった。すなわち,協力できた喜びを獲得するためには,ある程度の時間を確保する必要があり,その意味では調理実習の役立ち感を全てとらえたとは言い難い。その点は今後の課題として残されている。また,本報告では学習意欲の喚起は取り上げないが,体験的成長の自己認識としての役立ち感がもたらす楽しさは,「もっと〜を学びたい」とする学習意欲喚起のレベルに少なからずかかわっていると推測される。家庭科学習全般を通して,「役立ち感と楽しさの相乗効果」を巧みに組み込むことが,生活主体者としての自立認知につながる役立ち感を培う上で効果的であると考える。今後さらに,経験的成長の自己認識を促すと同時に,より質の高い楽しさをもたらす家庭科授業のあり方を課題とし,授業研究を重ねたいと考える。
- 日本家庭科教育学会の論文
- 2003-07-01
著者
関連論文
- 高齢者の居住環境と温熱適応能力に関する研究 (第4報) : 指標間対応にみられる特徴
- 高齢者の居住環境と温熱適応能力に関する研究 (第3報) : 住み方対応にみられる特徴
- 高齢者の居住環境と温熱適応能力に関する研究(第2報) : 着衣対応にみられる特徴
- 高齢者の居住環境と温熱適応能力に関する研究(第1報) : 日常生活行動にみられる特徴
- 高等学校必修家庭科履修者の感想文分析新構想研究東北地区のデータから (第2報) : 調理実習に関する記述と学習意欲の関連
- 高等学校必修家庭科履修者の感想文分析新構想研究東北地区のデータから (第1報) : 指導内容・方法とつきあわせて
- 中学生における家庭生活の価値意識の形成(第1報) : 家庭生活領域履修仁伴う意識の変容を視点として
- 中学生における家庭生活の価値意識の形成(第2報) : 親のイメージとの関連を視点として
- 高等学校家庭科の家族・家庭生活領域におけるシナリオ創作の効果的指導 : 生徒による相互評価の分析を通して
- 高等学校家庭科の調理実習にみる役立ち感
- 家庭科指導における批判的思考の導入(第2報) : 高等学校家庭科の家族・家庭生活および保育領域における実践的検討
- 家庭科指導における批判的思考の導入(第1報) : アメリカ家庭科教科書の教師用マニュアルにみる指導上の方略
- 5501 盛岡市の景観評価にみるイメージ変容過程のモデル化 : 居住経験を分析軸として(景観,建築計画I)
- 5496 高齢者の日常的活動度と歩道空間評価の軸形成 : 空間評価における個人差の形成要因に関する研究(その4)
- 5429 空間評価における個人差の形成要因に関する研究(その3) : 高齢者の歩道空間評価を視点として
- 5318 空間評価における個人差の形成要因に関する研究(その2) : 居住経験に伴う音想起を視点として
- 生活意識が住宅地のイメージ形成に及ぼす影響 : 盛岡市の新旧住宅地を事例として
- 5542 空間評価における個人差の形成要因に関する研究(その1) : 車いす使用者・高齢者によるアクセス空間の評価を視点として
- 7256 街路空間イメージの形成に及ぼす音環境の影響