ニカメイチュウの皮膚構造と薬剤の透過性
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概要
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1)物質の透過性に関して, ニカメイチュウ(おそらく多くの鱗翅目幼虫)の皮膚は, 総括的にみて, 硬皮部(sclerotized part)と膜状部(membranous part)に分けられる。頭部・胸腹部・胸肢などの各環節の皮膚は前者に属するが, これらの環節と環節とをつなぐ関節部(joint)は淡色で屈伸性に富み, いわゆる膜状部を形成する。幼虫の腹肢もこのような硬皮部と膜状部からできている。2)皮膚のパラフィン切片を, ハイデンハインのヘマトキシリンやマロリーの方法で染めてみると, 硬皮部の角皮には表角皮(epicuticle)・外角皮(exocuticle)・内角皮(endocuticle)の3部分が区別されるが, 膜状部ではこのうち外角皮と称する部分が存在しない。しかしこの部分の内角皮は硬皮部よりもかえって厚い。3)表角皮の性質にも硬皮部と膜状部に差異がみられる。すなわち蝋層の直下の層における硝酸銀還元顆粒の出現速度を比較すると, 皮膚の物質通過制限の最大責任部位と考えられる蝋層(wax layer)には, 膜状部では硬皮部よりも液体を容易に通過させるような性質が存在するし, またパラフィン切片に出現するパラフィン層(paraffin layer)とクチクリン層(cuticulin layer)のリピッドならびに蛋白に対する反応は硬皮部では膜状部より明らかに強い。4)皮膚のいろいろの部分にBHCやホリドールの微滴を塗布し, 幼虫の中毒死あるいはけいれん発現に至る時間をはかることによって, 皮膚の部位による薬剤透過性の速度を比較して, 次の順位のあることがわかった。氣門=胸腹肢≥胴部節間膜≥尾肢>胴部還節本体すなわち氣門を別にすれば, 一般に膜状部またはそれに近接した部分では(肢の皮膚に塗ると薬剤は直ちに膜状部に拡散する), 硬皮部にくらべて, 薬剤の透入はいちじるしく速いことがわかる(尾脚は他の脚にくらべておそいがこの原因はよくわからない)。5)このように膜状部における薬剤透過性の大きいことは, その部分の角皮に外角皮を欠くこと, 表角皮の性質に差異のあることが大きな原因になっているのではないかと思われる。
- 日本応用動物昆虫学会の論文
- 1958-03-01
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