イネ黄萎病ウイルス保毒ツマグロヨコバイの識別法について
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概要
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イネ黄萎病の媒介昆虫であるツマグロヨコバイの保毒と無毒とを虫自体で簡易かつじん速に判別する方法を探さくするために二,三の実験を試みた。その結果は次の通りである。1. 虫体内容物の圧出による脂肪組織の簡易観察法において,健全虫の脂肪細胞はナイル青液で青色に染まるが,保毒虫のそれはナイル青液やスーダンIII液で淡赤色ないし赤色に染色する中性脂肪様小球を多数含有している。パラフィン切片標本において,この小球は切片製作中にアルコール,トルオールおよびキシロールなどの溶剤によって溶解消失し,それによって脂肪細胞が空胞化ないし網目状化するものと考えられる。2. パラフィン切片による細胞組織学的観察法において,保毒虫の90%の個体が脂肪細胞に異状を示すが,他の10%の個体は例外的に異状を示さないし,また健全虫では86%の個体が無変化で異状を示さないが,残りの14%のものは例外的に異状を示す。次に虫体内容物の圧出による脂肪組織の簡易観察法では,保毒虫の82%のものが異状で,残りの18%が例外像を呈し,また健全虫の75%のものが正状で,残りの25%が例外的に異状を示す。すなわち,簡易観察法による例外像はパラフィン切片観察法によるそれよりもいくらか多いけれども,両者の傾向はほぼ同じであるといえる。3. 本県のイネ黄萎病多発地における保毒虫率をパラフィン切片標本観察法や簡易観察法で調べると,それらの結果はイネ苗接種法のそれと比較的よく一致する。これは例外的現象が保毒虫および健全虫のいずれにおいても認められるからである。4. 本県のイネ黄萎病流行地において保毒虫率とイネの発病程度との間には密接な関連があるように見うけられる。8月初旬にすでにかなりの被害株のみあたるほ場では,虫もかなり保毒化している。この保毒虫の一部はイネにウィルスを媒介接種しイネ刈取後のり病再生イネの発生にかなり関連があるものと考えられる。5. 虫体内容物の圧出による脂肪細胞の簡易識別法はなお一層の改良を加えれば,本病流行地における保毒虫率のあらましをつかむ実用調査に活用できる可能性があるように思われる。
- 日本応用動物昆虫学会の論文
- 1963-09-30
著者
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