自製か購入かの意思決定の再検討(2) : 品質と納期に関する非財務的尺度の使用について
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概要
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前稿「自製か購入かの意思決定(1)-戦略的管理会計の観点から-」では,自製か購入かの意思決定を戦略的管理会計の観点から再検討すべき6つの理由を示した。さらに,自製か購入かの意思決定で用いられる差額原価収益分析について10項目の問題点を指摘し,そのうちの9項目が戦略的な視点の欠如に起因した問題であることを明らかにした。本稿では,前稿で指摘した差額原価収益分析の問題点のうち,品質と納期という2つの定性的要因を,戦略的管理会計の重要なツールである非財務的尺度によって測定し,その測定値を部品の価格とともに意思決定上総合的に評価する方法について論じている。定性的要因は意思決定に与える影響度から,(A)差額原価収益分析の結果よりも重要性が高く,意思決定をそれ自体で左右する力を持つ優先的定性的要因,(B)意思決定上,差額原価収益分析と同列に扱われ,重要性に関して互いに優劣をつけることが難しい競合的定性的要因,(C)重要性が低く,意思決定の際にも参考程度に利用されるだけであり,差額原価収益分析の示す結果の方がそれよりも重視される劣後的定性的要因の3段階に階層化することが可能である。部品の品質と,納期についての信頼性は,このうち(B)競合的定性的要因に属する。本稿では,品質と納期を測定するための非財務的尺度を,物量尺度,比率,ランク付けという分類を行って例示した。このような非財務的尺度により測定した値は,部品の価格とともにサプライヤー間で比較検討され,総合的な見地から自製か購入かの意思決定が行われる。自製か購入かの意思決定プロセスを分析すると,1)自製にするか購入にするかについてのみ意思決定を行うプロセス,2)複数のサプライヤー候補から一社を選定するプロセスの2つの意思決定プロセスに分解することが可能である。前者のプロセスでは,企業の戦略などの優先的定性的要因が意思決定に重要な影響を及ぼす。価格,品質,納期が意思決定に影響を及ぼすのは後者のサプライヤーを選定する意思決定プロセスである。企業の戦略や製品の性質などから価格,品質,納期について優先順位を決定し,第一優先順位に選ばれなかった要素は満足基準として用いられ,まずサプライヤーの絞り込みが行われる。その後,第一優先順位に選ばれた要素について最もよい条件を提示したサプライヤーが選択される。本稿では,さらに,非財務的尺度を用いて,品質と納期についてサプライヤーの業績評価基準を設定することの利点と,品質と納期に関する貨幣的評価について,その方法と必要性の2つの観点から検討した。
- 慶應義塾大学の論文
- 1998-06-25
著者
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