温室効果ガス排出枠に関する会計の論理 (澤 悦男教授退任記念号)
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概要
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地球温暖化防止のための国際的枠組みに関する京都議定書の発効がいよいよ現実のものとなり,温暖化ガス排出枠取引が実現するに至った。排出枠取引の会計処理については各国で議論をしているところであり,現在のところ定説はない。そこで,本稿は,排出枠取引に関する会計上の論理について私見を展開することを目的とするものである。排出枠取引に関する本稿のアイデアは,以下の通りである。(1)現物商品としての排出枠は実物資産である「無形資産」であり,漁獲割当量との類似性があり,棚卸資産のように分割可能なところに無形資産であっても特殊性がある。(2)差金決済を予定する先物商品としての排出枠は金融商品である「コモディティ・タイプのデリバティブ」である。したがって,排出粋が実際に消費可能時点(排出枠の発生)前後において,金融商品と実物資産の相異なる属性もつ資産が存在する。(3)排出粋が先渡取引の場合であれば,金融商品は発生せず,実物資産の「未履行契約」となろう。この場合,実物資産としての排出枠が譲渡されるまでの間のオフバランス問題を解決するには,「契約会計」の導入が必要となる。(4)先渡あるいは先物取引における先物排出枠が実物資産である「停止条件付き排出枠」であると解釈すると,先物取引は実物資産としての「先物排出枠」の譲渡がその時点であったことになり,会計上のオフバランス問題は解消する。なお,現行の会計は実物資産と金融資産についての当初測定,事後測定が相異なるハイブリッド型となっている。実物資産は取得原価・実現主義であり,金融資産は時価評価・発生主義である。ところで,従来から実物資産を無償で取得した場合や低廉価額で取得した場合には取得原価を公正価値評価し,受贈益を計上するのか否かで議論があったが,グランド・ファザーリングによる割当がまさにこれに当てはまる。また,活発な市場を前提に定型化された実物商品および市場価格が存在する商品相場取引に関連して,とくにこの商品を投機目的で取得した場合,これらの商品を期末に時価評価するというアイデアがあり,現物排出枠取引についても市場価格が存在するような場合に時価評価のアイデアが生じるところから,これについても検討する。
- 慶應義塾大学の論文
- 2001-12-25
著者
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