出向・転籍者と中途採用者 : 45歳以上ホワイトカラーの社外からの受け入れ実態
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
これまで出向・転籍は,主に高齢化に伴うポスト不足対策や雇用調整の手段として議論されてきた。しかしこうした議論は,「出向させる側の論理」であり,それが出向・転籍の唯一の役割ならば,企業が出向・転籍者を受け入れる積極的なメリットは存在しないことになる。しかし,実際は,出向のメリットとして,上述の点に加えて,(1)移動元が関与することにより,異動に伴う多くの情報が伝わる,(2)企業が関与することにより,個人が適職を探すよりもより多くの求人情報を入手できる,という2点がある。ただし出向・転籍は,市場メカニズムに基づいて行われていないために,人的資源配分を阻害する恐れを孕んでいる。この点,特定の企業間関係から離れて,転職意志を持った人材を調達できるのが中途採用である。それでは,企業は出向・転籍者と中途採用者をどの様な形で棲み分けているのだろうか。こうした問題意識に基づき,この論文では45歳以上ホワイトカラーの受け入れ実態について,出向・転籍者と中途採用者を両方受け入れている企業を対象に考察を行った。調査結果の概要は,以下の通りである。1)企業が45歳以上ホワイトカラーを受け入れるのは社内にない人材や即戦力となる人材を確保するためである。これは彼らのキャリアタイプを見ても明らかであり,特定の職能を中心にキャリアを培った者が多くなっている。受け入れについては,約4分の3の企業が,肯定的な評価をしている。しかし中途採用者については,出向・転籍者に比べて戦力になるまでに時間がかかると考えている企業が多く,問題点としても挙げられている。2)受け入れ時の最高年齢を出向・転籍者と中途採用者で比較すると中途採用者の方が高くなっている。60歳以降の出向・転籍者を受け入れている企業が大幅に減少するのは,企業が60歳定年を前提にそれ以前に人員を調整しようとしていることを示唆している。しかしこれとは裏腹に,受け入れ時の役職については,45歳以上ホワイトカラーを「一般職」として採用している企業が40.8%に達し,中途採用者に比べ出向・転籍者を上位役職で受け入れる企業が多くなっている。3)出向・転籍者と中途採用者では,給与の格付け基準が大きく異なり,前者は「出向元」企業の賃金に,後者は職業経験と「出向先」企業の生え抜き従業員のバランスに,それぞれ基づいて格付けを決める企業が多くなっている。
- 慶應義塾大学の論文
- 2000-12-25
著者
関連論文
- 管理職への選抜・育成から見た日本的雇用制度 (特集 日本的雇用システムは変わったか?--受け手と担い手の観点から)
- 何が過剰労働を引き起こすのか--労務管理の現場から (特集・職場環境の変化とメンタルヘルス)
- 多面評価制度の日本企業、 外資系企業比較 : 製造業の事例 (これからの評価制度)
- これからの評価制度 (No.47 これからの評価制度)
- 管理職層におけるホワイトカラーの仕事とその専門性 : 管理職と専門職の比較分析
- 成功する転職とは (「転職新時代」)
- 製薬業における賃金制度の日本企業,外資系企業比較
- 出向・転籍者と中途採用者 : 45歳以上ホワイトカラーの社外からの受け入れ実態
- 配置・昇進・人材育成と管理職の機能
- 中途採用労働市場の現状と今後の動向 : 成長企業を中心にして
- 金融機関における大卒ホワイトカラーの雇用管理の日英比較
- 企業内昇進における「効率」と「動機づけ」 : わが国企業における資格制度の機能について
- ロンドンの日系金融機関における日本人出向者の役割
- 人材獲得競争で勝ち残るために (特集 多様化する人材力獲得戦略)
- 人事制度の国際比較 多国籍企業内労働市場における収斂と差異化
- 個人選択型人事制度とファスト・トラック--企業内労働市場の多様化にどの様に対応するか
- 定年延長と継続雇用制度--60歳以降の雇用延長と人的資源管理 (特集 高年齢者雇用)
- なぜ「名ばかり管理職」が生まれるのか (特集 その裏にある歴史)
- 投資銀行における賃金制度の資本国籍間比較--ロンドンと東京 (2006年労働政策研究会議報告 賃金制度の見直しと賃金政策) -- (賃金制度の国際比較[含 討論])
- イギリスの投資銀行--日系企業と非日系企業における管理職層 (特集 管理職の役割変化と雇用関係)
- 書評 柳田雅明著『イギリスにおける「資格制度」の研究』
- 高齢者雇用を拡大するためには何が必要か (特集 これからの企業人のキャリアと高齢者雇用 : 雇用環境の変化の時代へ)
- 管理職の育成、活用、処遇は如何にあるべきか
- 異なる組織フィールド・同一組織フィールド内の企業間の人事戦略比較(セッション8【研究発表】)