明治期綿糸紡績業におけるリング紡績機の導入と生産性の上昇 : 輸入技術の導入と定着をめぐる予備的考察
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概要
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明治期日本における綿糸紡績業の急速な発展を可能にした要因として従来の研究で重視されてきたのは,紡績業に対する政府の特恵的保護,カルテル行動,低廉な未熟練労働力の利用などである。しかし,国産綿糸と外国産綿糸との競争を可能にした要因を考えていく場合には,このような非競争的,保護的な側面を強調するだけでは不十分であり,日本の紡績企業が市場開拓,先端生産技術の導入に積極的に取り組んでいたことを看過するわけにはいかない。このような観点から,本稿では明治期のリング紡績機の導入の問題を取り上げ,リング紡績機導入後の生産性変化に着目することにより,綿糸紡績業における輸入技術の導入と定着過程について考察を行う。本稿の目的は,ミュール紡績機からリング紡績機へと転換することによって紡績企業の生産性がどのように変化したかを確認すること,そして,リング紡績機という輸入技術の導入にあたって明治期の国内紡績企業が直面した問題についての仮説を呈示することにある。日本におけるリング紡績機の導入については,国際的にも例のない急速かつ徹底的なものである,という評価がこれまでの研究によってほぼ通説となっている。しかし,1896年当時にあっても,リング紡績機を導入したにもかかわらず低い生産性水準に甘んじていた企業が存在していた。また,個別企業単位でみて,リソグ紡績機の導入率と生産性上昇のタイミング,スピードは必ずしも一致していない。明治期紡績業におけるミュール紡績機からリング紡績機への転換期において,リング紡績機という新技術の導入と定着がすべての企業でスムーズに進展したと見なすのは早計であり,各企業が直面する問題も多様なものであったと考えられる。
- 慶應義塾大学の論文
- 1995-10-25
著者
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