preterito simpleとpreterito imperfectoのアスペクト対立に基づく解釈に対するいくつかの疑問
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概要
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スペイン語の動詞単純形式の中で過去の事態に言及する二つの形式,すなわち,preté-rito simple(pretérito)とpretérito imperfecto(imperfecto)の機能的違いをどのように説明するかに関しては,これまでにも数多くの説が提起されてきたが,その中でも最も流布し,また,広く受入れられてきたのはこれら二形式をアスペクト掌中における最小対と見なす説,すなわち,アスペクト説だった。本稿はこのアスペクト説が準拠してきた論拠の有効性を,pretérito, imperfectoの実態と照合することにより検証し,アスペクト説そのものの妥当性を問うものである。その結果は以下のようにまとめられる。論拠A : pretéritoとimperfectoは両方とも同じ過去に定位された事態に言及する。したがって,両形式の違いは時制(tiempo)以外のもの,つまり,アスペクトに求められるべきである。この論拠は有効ではない。なぜならimperfectoは非過去の事態にも言及可能だからである。論拠B : アスペクトというのは当該事態の捉え方,見方を示すものである。このとき完了アスペクトを持つpretéritoは当該事態の始めから終わりまで全てを表出するのに対し,不完了アスペクトを持つirnperfectoは当該事態の始めにも終わりにも言及せず,ただ内部的一面を表出するだけということができる。pretéritoとimperfectoの間に見られるこのアスペクトの違いは,限定を示す時の副詞句との共起の可否に明らかである。この論拠も有効ではない。なぜならアスペクト説によれぽ,当該事態の限定性を示すはずのないimperfectoが限定を明示する副詞句と共起することがあるからである。論拠C : 当該二形式のアスペクトの違いは,当該事態の習慣性,進行性,状態性の表出の可否に明らかであり,それはimperfectoに特有の機能である。この論拠も有効性を欠く。なぜならぼこれらの意味特徴の表出はimperfecto自体の機能というよりはむしろ,当該事態のimperfectoによる表出とそれ以外の要素,例えば,ある一定の副詞句や文脈の存在等の組み合わせから生じる一種の意味効果と思われるからである。論拠D : 以上の論拠A~Cからpretéritoとlmperfectoはアスペクト範疇に関しての最小対ということができる。この論拠も有効ではない。なぜなら,すでに見たように論拠A~C自体の有効性が問題になる上に,スペイン語の事態のなかにはimperfectoによる表出は可能でもpretéritoによる表出は不可能か非常に困難というものが存在するからである。 上で指摘された問題に対するアスペクト説の対処の仕方を見ると,その論拠が相互依存の関係にあることが分かる。論拠Aの問題は論拠Bによって解決され,同様に論拠Cの問題も論拠Bによって説明されるからである。しかし,そのような考え方をすると,かえって論拠A,論拠Cの両方とも有効性はないということになってしまう。というのも,本稿で明らかになったように,それらが準拠する論拠Bの有効性そのものが大いに疑問視されるからである。同様のことは論拠Dと論拠Bとの関係にもあてはまる。以上のことはすべて,pretéritoとimperfectoの機能的違いをアスペクトという範躊における対立と捉える説には十分な有効性がないことを示すものである。
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