ピーターのナイフを意識するダロウエイ夫人 : 存在の不安と離人症的心性
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概要
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さまざまな人間の心性が, 象徴性豊かな文体で書かれたMrs Dallowayの解読のプロセスのひとつとして, 登場人物のひとり, ピーター・ウォルシュが習慣的にもつポケット・ナイフを手掛かりに, 彼とダロウエイ夫人クラリッサのそれぞれの心性を理解し, それらが作者ウルフの意図した"the world seen by the sane and the insane"の描写とどのように関連するかについて考察する.「ナイフ」は作品を通して現れる反復語であり, ピーターの登場する場面と不可分である点で, 彼の依存症的弱さの心象とみなされる.ピーターの弱さを補償するナイフは, クラリッサにとっては自分と他者の間を, そして彼女の存在を切り裂く敵意として意識され, 「存在の不安」を明るみにする.その不安は, 空間・距離感覚の欠落や自己消滅感を覚える病的な離人症症状に由来すると考えられるが, ナイフは彼女の心性を刺激し, 狂人セプティマスが体験する時間の不連続, 原初的無意識と意識の分離状態との類似性を見せる.しかし, 彼女は向かいの窓に写る老婦人が一つの部屋から次の見えない部屋へと退去する姿を見たとき, 啓示のように生が死へと途切れることなく連続することを確信する.作者は, 時を告げるビッグ・ベンの音の「波」と「合わせ鏡」としての窓に写る老婦人の姿との相互作用によって, クラリッサに生と死の時間の連続性を感得させ, セプティマスの自殺を追体験させることで, 時間の空間を超えて死の不安からの解放の可能性を示したのである.同時に実在する存在としてのクラリッサによって, ピーターの自立した生をも暗示したと言えよう.
- 川崎医療福祉大学の論文
著者
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