病者に寄り添うレィツィアの姿 : 異常と正常をつなぐ人
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
V.ウルフは, Mrs Dallowayにおいて, 狂人セプティマスの情景とダロウェイ夫人の情景とをつなぐことに苦心した.セプティマスの病はその主要な症状である激しい幻覚と無感覚から, 明らかに精神分裂病であると判断される.レイツィアは彼の異常な言動を理解できず逃避しようするが, 一方では異常の中に正常をかいま見て混乱し, また精神病者を疎外する世間の目を意識して孤立感に苦しみ悩む.彼らは著名な精神科医を訪れるが, 彼らの苦悩や悲哀に共感を示さない医師に絶望に近い「見捨てられ感」を覚える.しかしその体験を契機に, レイツィアにセプティマスを狂気もろとも引き受けようとする心的変化が起きる.相互作用によって, セプティマスは病が原因で引き起こされる症状を恐れなくなり, ふたりは正常に会話し, 笑い合い, 心やすらぐ時を過ごす.結果として, セプティマスは自殺を図ったとはいうものの, 彼の死はダロウェイ夫人クラりッサの主催するパーティーの場面で伝えられ, 彼女の意識の中で克服され, 彼女の生へとつながれていく.このように小説の展開において, レイツィアはセプティマスを異常のままに受容し, 彼に寄り添いながら生活することで, 正常と異常をつなぐ.またそのような姿は, セプティマスと共に, クラりッサの病的に無感覚な内面に光をあて, 彼女の死の意識を生へつなぐ人として機能していると考えられる.そこには, 狂気を人間性の一部としてみなす, ウルフ独特の人間観が現れていると言ってよいであろう.
- 川崎医療福祉大学の論文
著者
関連論文
- Women in Loveにおける無意識の啓示
- 福祉系大学・短期大学における英語教材調査とリーディング教材開発研究
- 医学用語教育へのWeb-based training (WBT) の導入 (2) 教材の利用と評価
- 基礎教育課程における医学・医療英語教育の実践と課題 : ESPとしての医学・医療英語教育
- ピーターのナイフを意識するダロウエイ夫人 : 存在の不安と離人症的心性
- 病者に寄り添うレィツィアの姿 : 異常と正常をつなぐ人
- ダロウエイ夫人の不安を触発するミス・キルマン
- The Shadow in the Rose Garden における「秘密」について
- D. H. ロレンス : Smileにおける「笑い」について