造型される"旅" : 東下りと勅撰集
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概要
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本稿では,勅撰集における東下り摂取を切り口に,旅は和歌というジャンルではいかに表現されてきたのかという問題の一端を考えてみたい。時代や文化背景によって,旅のあり方,その表現の仕方は異なってくる。同時代,同質の文化背景に生きていても,場所や土地の捉え方は個人の感性によって異なるはずである。旅の表現は,多様性がその特徴となって当然であろう。ところが,平安鎌倉期に焦点を絞れば,旅の表現に顕著なのは,多様性ではなく,類型性である。事実に即していると捉えられがちな紀行にさえ,類型表現が特徴的である。類型表現は,歌枕という,都から地方の共通理解,美的把握が象徴的に示すように,都を絶対化する観念性に根ざしている。本来定着の場である都から移動する場合には,目的とコースがあった。都は出発点であり帰着点である基軸として,揺らぐことはない。これが,いわゆる制度的な旅である。対極的に『伊勢物語』の東下りでは,主人公の昔男は,都を喪失して流浪する。すなわち,反制度的な逸脱として東下りは『伊勢物語』に造型された。しかし,東下りが勅撰集に摂取され,その表現が歌枕として定着していく過程で,その流浪の悲劇性は捨象されていく。和歌表現もまた新たな類型を生み出す。こうして旅の文化は醸成されていくのである。
- 川村学園女子大学の論文
- 2002-03-15
著者
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