「鉢かづき」と販女 : 女性史からみた御伽草子
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概要
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本稿は、女性史の立場から御伽草子の歴史的意味を再検討し、「鉢かづき」を素材に分析したものである。最初に、御伽草子研究を回顧して、1950年代の林屋辰三郎による町衆文化論と1970年代のバーバラ・ルーシュによる批判を検討した。町衆文化論は、御伽草子は室町時代の都市京都の発展を基盤とした町衆の文化的所産とするものであり、バーバラ・ルーシュの批判は、御伽草子は下克上を主題とする庶民文学ではなく、国民文学であるという主張と、作者が町衆ではなく、漂泊の宗教的・世俗的芸人たちの手になったものであるという主張であった。その芸人には次の二つのタイプがあり、第一のタイプは絵解きと呼ばれた男女の芸人たち(絵解法師・熊野比丘尼)で、第二のタイプは琵琶法師と瞽女である。この二説を検討し、最近の伊東正子の御伽草子絵論や松浪久子の民間伝承論を参照しながら、両説とも必ずしも矛盾するものではないことを明らかにしたうえで、1980年以降、御伽草子論を展開してきた黒田日出男の仕事や、保立道久の具体的な分析を引用しながら、「鉢かづき」の主題を検討した。なかでも、「鉢かづき」の鉢について、同時代の絵画資料に描かれた市で働く販女の頭上運搬との関わりに注目した。御伽草子(奈良絵本)の生産・流通に職人が多く関わっていたのであるから、鉢にも当時の庶民の風俗が反映したと思われるのである。なお、「鉢かづき」には写本・刊本が多くあり、流布本としての渋川版を中心に分析したが、異本である御巫本系統の京都大学総合人間学部図書館蔵「はちかづき」と、寝屋長者(交野長者)伝説を背景とする寝屋川市役所蔵本「寝屋長者鉢かづき」についても述べた。
- 2004-03-06
著者
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