食糧科学から動物栄養へ(農芸化学部門)
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概要
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本稿は「食糧科学から動物栄養へ」の表題のもと, 筆者が講座を担当して以来, ほぼ10年間の研究内容をまとめ, 概説したものである。第I章は[食品中の消化酵素阻害因子]として植物性食品のトリプシンインヒビターとアミラーゼインヒビターについて述べた。ナス果皮およびファバビーンのトリプシンインヒビターについては主に生化学的な研究であるが, クランベリービーンのアミラーゼインヒビターについては生化学な研究に加えてインヒビターの経口摂取がラット血液の糖やホルモンに及ぼす効果など, 栄養学的な研究を行っている。なお第I章では他に熱帯産マメ類の食糧化学的な分析結果を付加してある。第II章は[食品タンパク質の抗酸化機能]として各種タンパク質が不飽和脂肪酸の酸化に抑制的に作用すること, 粉末モデル系で特に有効であることなどを実証した。小麦グリアジンとリノール酸とで作成した噴霧乾燥標品(マイクロカプセルと考えられる)は長期の保存にも十分耐え, 栄養的にも食品の立場からも何ら酸化変性を受けていないことを立証している。また, 卵白と紅花油やイワシ油などの脂肪との噴霧乾燥標品も長期保存に耐え, これら脂肪に多く含まれている多価不飽和脂肪酸も変化を受けていない。これら噴霧乾燥標品を実際にパンやクッキーに添加してみたが, 無添加のものとの間に嗜好の差は認められず, 不飽和脂肪酸強化として十分食品に利用できるものと考えている。また酸化と水分活性との相関などについても考察を加えた。第III章は[食事成分と脂質代謝]と題して主に血清コレステロールの問題, 胆汁酸吸収についての研究をまとめた。現在栄養学で最も関心を持たれているものの一つに血清コレステロール濃度の問題がある。植物性タンパク質特にダイズタンパク質の摂取が血清コレステロールを低下させることはよく知られている事実であるが, その理由については統一的な見解はない。筆者らはダイズタンパク質が膵消化酵素の作用を受け, 生成したペプチド, 特に疎水性の高いペプチドが胆汁酸と結合してその排泄を促進すること, 結果として胆汁酸の腸肝循環を抑制すること, さらには肝臓でのコレステロールからの胆汁酸合成を高め, ひいては血清コレステロール濃度の低下を引き起こすことを立証した。次いで食事成分や栄養条件が胆汁酸吸収に及ぼす影響をラット回腸部位の反転腸管や上皮細胞を用いて検討した。また胆汁酸の吸収の他に粘膜への蓄積についても測定した。第IV章では[新しい展開を求めて]としてタンパク質・糖質・脂質の三大栄養素の内で最も重要と考えられるタンパク質栄養について, その摂取方法とラットの成長を中心に栄養生化学的な見地から検討した。結論を急げば1日2度タンパク質を摂取するのが幼ラットの成長を基準にすれば最も望ましい。この研究と並行してラットの二次元での自発的運動量測定装置を自作し, 栄養条件と運動量, 嗜好問題などについて実際に本装置の有効性を確かめた。最後にラット腸管広範囲切除と機能快復に対するペプチドの効果を検討し, 分岐鎖アミノ酸およびグルタミンの経腸栄養剤への添加が効果的であることを確認した。本稿は既に学術論文として印刷されているものをまとめたものであり, 第I∿IV章の範疇に入りにくいものや進行中の研究はすべて割愛した。
- 1993-12-08
著者
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