脳の発達障害ADHDはどこまでわかったか?
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概要
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注意欠陥・多動性障害(AD/HD:Attention Deficit/Hyperactivity Disorder)における治療薬として使用されているアンフェタミンなどの覚せい剤の作用メカニズムについては十分に解明されていないが,覚せい剤がドパミン(DA)やノルエピネフリン(NE)などの中枢性カテコールアミンを増やすことから,ADHDへの治療効果が中枢神経系におけるカテコールアミン神経伝達を介していることは明らかである.モノアミントランスポーターは主に神経終末の細胞膜上に位置し,細胞外に放出されたモノアミンを再取り込みすることによって細胞外濃度を調節している.ドパミントランスポーター(DAT)は覚せい剤の標的分子であり,ADHDとの関連が注目されている.野生型マウスに覚せい剤であるメチルフェニデートを投与すると運動量が増加するが,多動性を有しADHDの動物モデルと考えられているDAT欠損マウスでは,メチルフェニデート投与により運動量が低下する.野生型マウスではメチルフェニデート投与後に線条体で細胞外DA量が顕著に増加するのに対して,DAT欠損マウスでは変化がなく,これに対して前頭前野皮質では,野生型マウスでもDAT欠損マウスでもメチルフェニデートによる細胞外DA量の顕著な上昇が起こった.前頭前野皮質ではDA神経終末上のDATが少ないためにDAの再取り込みの役割をNETが肩代わりしていると考えられており,メチルフェニデートは前頭前野皮質のNETに作用して再取り込みを阻害するためにDAが上昇したと考えられた.筆者らは,この前頭前野皮質におけるDAの動態が,メチルフェニデートによるDAT欠損マウスの運動量低下作用に関与しているのではないかと考えている. 1937年に米国のCharles Bradley医師が多動を示す小児にアンフェタミンが鎮静効果を持つことを観察して以来,注意欠陥・多動性障害(AD/HD:Attention Deficit/Hyperactivity Disorder)におけるアンフェタミンなどの覚せい剤の中枢神経系への作用メカニズムについて数多くの研究がなされてきたが,未だ十分に解明されていない.覚せい剤がドパミン(DA)やノルエピネフリン(NE)などの中枢性カテコールアミンを増やすことから,ADHDへの治療効果が中枢神経系におけるカテコールアミン神経伝達を介していることは明らかである.健常人への覚せい剤の投与は興奮や過活動を引き起こすにもかかわらずADHD患者へは鎮静作用があることから,覚せい剤のADHDへの効果は「逆説的」と考えられている.本稿では覚せい剤の標的分子の一つであるDAトランスポーター(DAT)に関する最近の知見を解説するとともに,我々が作製したDAT欠損マウスをADHDの動物モデルとして紹介し,ADHDの病態メカニズム解明に関する近年の進展について述べる.
- 2006-07-01
著者
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曽良 一郎
東北大学大学院医学系研究科 神経・感覚器病態学講座 精神神経生物学分野
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曽良 一郎
東北大院医精神神経生物学分野
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福島 攝
東北大学大学院医学系研究科 神経・感覚器病態学講座 精神神経生物学分野
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