脳血管障害片麻痺患者の臨床的バランス評価指標の検討:移乗・移動動作の動的バランス能力判断基準に望ましい指標と課題の傾向を探る
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概要
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【目的】<BR>動的バランス能力は理学療法の実施においても、動作自立度を決定する判断基準としても重要な因子である。動的バランス能力について多くの研究や報告がなされているが、臨床的バランス評価指標としてのゴールデンスタンダードは確立されていない。このような背景にはTsigilis Nら(2001)が報告した動的バランス能力の要因が動作特異性に依存している事が関与していると考えられる。臨床場面では望月ら(2009)が行った臨床的バランス能力評価指標に関するアンケート結果から、歩行を含む動作の安定性を評価する判断基準として、1:転倒せずに動作が遂行できる、2:身体動揺の程度、3:身体運動の円滑さ、4:動作遂行時間などが用いられている。上記を踏まえ、本研究では移乗・移動動作に結び付きやすい2種類のステップ動作(以下、Single step・Double steps)から身体動揺、身体運動の円滑さ、動作遂行時間を客観的に計測し、臨床で用いている判断基準の妥当性を検討するために移乗・移動能力自立度との関連を検証した。<BR>【方法】<BR>対象は脳血管障害片麻痺患者13名(屋内歩行自立者5名、屋内歩行見守り者5名、屋内歩行軽度介助者3名、身長159.0±10.2cm、体重56.3±11.2kg、年齢59.2±10.5歳、発症後経過日数:157.0±53.1日)とした。測定課題として、Single stepは麻痺側下肢を支持とし非麻痺側下肢を前方へ振り出す一歩の前方ステップ、Double stepsは麻痺側下肢を前方へステップした後に連続して非麻痺側下肢もステップする二歩の前方ステップとした。開始肢位は、被験者の足関節間距離を肩幅と同等にした自然立位とし、ステップ長は被検者の任意とした。計測機器は三次元動作解析装置VICON MX13(VICON社製)と床反力計(AMTI社製)を使用した。身体動揺は空間に対する頭部・上部体幹・骨盤帯の最大角度変化値を前額面・矢状面にて算出した後、その総和したものを指標とした。動作の円滑さと動作遂行時間を併せた指標として、身体重心加速度を一次微分した躍度(jerk)を算出した後、躍度を動作開始から終了までの時間で二乗積分したものを算出した(以下、躍度最少評価関数)。移乗・移動動作の自立度としてFIMの運動項目の総和を用いた(以下、motor FIM )。統計学的分析にはSpearmanの順位相関係数を用い、motor FIMと身体傾き角度との相関関係、motor FIMと躍度最少評価関数との相関関係を各動作にて分析した。<BR>【説明と同意】<BR>研究計画において当院の倫理審査委員会の承認を得た後、対象者に研究の趣旨を説明した上で同意を得られた対象者のみ計測をおこなった。<BR>【結果】<BR>motor FIMの平均値・標準偏差は26.2±5.0であった。身体動揺とmotor FIMとの関係においてSingle stepでは相関を認めなかったが(r=0.53 p>0.05)、Double stepsでは相関を認めた(r=-0.71 p<0.05)。躍度最少評価関数とmotor FIMとの関係においてSingle step・Double stepsともに相関を認めた(r=-0.78 p<0.01 r=-0.80 p<0.01)。<BR>【考察】<BR>身体動揺、躍度最少評価関数が小さいほど、移乗・移動の自立度は向上する結果となり、動的バランス能力の臨床的バランス評価指標として有用性が示唆された。Single stepとDouble stepsの相違は身体動揺でみられ、Double stepsは身体動揺が小さいほど移乗・移動動作の自立度が向上するが、Single stepでは相関が得られなかった。この結果から、移乗・移動動作の様な身体重心の移動を大きく伴う連続・複合動作の評価には、Double stepsのような連続した測定課題がより適切であることが示唆された。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR>臨床で用いられている判断基準(身体動揺・円滑さ・遂行時間)を客観的に計測した結果、移乗・移動の自立度との相関により妥当性があると考えられる。さらに移乗・移動のような連続・複合動作の評価にはDouble stepsのような測定課題がより望ましいことがわかった。これは動的バランス能力の要因が動作特異性に依存することを証明しており、既存のパフォーマンステストを臨床的に解釈する際には配慮が必要であることを示唆している。
- 公益社団法人 日本理学療法士協会の論文
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