脳血管障害片麻痺患者の歩行における体幹の角度変化量と歩行自立度及び下肢との関係
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概要
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【はじめに、目的】 Perryらは、歩行中の身体を頭頚部・体幹・上肢のpassenger unitと骨盤・下肢のlocomotor unitの2つに大別し、passenger unitは歩行に直接貢献するというよりは運ばれている部分であるとしながらも、passenger unitのアライメントこそ、locomotor unitの筋活動を左右する最大の要因であるとしている。臨床場面においても、脳血管障害片麻痺患者の歩行時に体幹の複合的な代償運動が認められることが多く、体幹への治療介入によって歩行が改善することも少なくない。しかしながら、これまでの脳血管障害片麻痺患者の歩行の研究は下肢に関するものが主であり、体幹と歩行自立度との関係や、体幹が下肢に及ぼす影響については先行研究が少ないのが現状である。そこで今回、3次元動作解析装置を用いて脳血管障害片麻痺患者の歩行を軽介助期から自立期まで縦断的に計測し、上部体幹の運動と歩行自立度及び麻痺側下肢との関係について検討した。【方法】 対象は、著明な関節可動域制限と高次機能障害を有さない脳血管障害片麻痺患者8名(男性4名、女性4名、年齢59.9±13.6歳)で、右片麻痺6名、左片麻痺2名であった。下肢のBrunstrom StageはStageIVが5名、StageVが3名であった。計測は、各対象者の歩行の軽介助期(発症日より70.14±39.7日)と病棟内歩行自立期(発症日より131.9±62.7日)に、3次元動作解析装置(VICON MX13 カメラ14台)、床反力計(AMTI社製)6枚を用いて、独歩での自由歩行を実施した。抽出パラメータは、上部体幹角度(側屈・回旋・前後屈)の変化量、身体重心(以下COG)の位置の変化量、床反力(前後・左右・鉛直方向)の最大値及び最小値、床反力作用点(以下COP )の変化量、下肢各関節モーメント(以下M)の最大値及び最小値、下肢関節角度の変化量とした。統計学的処理として、軽介助期と自立期の歩行周期各相における上部体幹角度の変化量についてWilcoxonの符号付順位和検定を行った。また、有意差の認められた上部体幹角度の変化量と、軽介助期におけるその他の抽出パラメータとの関連について、Spearmanの順位相関係数を算出した。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は当院の倫理審査委員会の承認を受け、対象者には紙面と口頭で研究内容の説明を行い、同意を得て実施した。【結果】 上部体幹角度の変化量は、自立期の初期接地期(以下IC)~荷重応答期(以下LR)においてのみ側屈角度の変化量が有意に減少した(p<0.05)。回旋および前後屈角度の変化量については、全歩行周期で有意差を認めなかった。また、軽介助期におけるIC~LRの上部体幹の側屈角度の変化量は、IC~LRのCOG側方移動幅(r=0.786、p<0.05)、床反力鉛直成分最大値(r=0.786、p<0.05)、床反力後方成分最大値(r=-0.762、p<0.05)、股関節外転角度の変化量(r=0.905、p<0.01)との間に関連を認めた。【考察】 軽介助期と自立期の比較において、IC~LRの上部体幹の側屈角度の変化量が有意に減少したことから、立脚初期に上部体幹を中間位に保持することが歩行の自立に必要な要素の一つである可能性が示唆された。また、IC~LRにおける上部体幹の側屈角度の変化量が同時期のCOG側方移動幅及び股関節外転角度の変化量と関連したのは、上部体幹の側屈によって上半身重心が外側に偏位するとともにデュシェンヌ様の姿勢となるため、上半身重心と下半身重心の中点となるCOGの位置が外側に偏位するとともに、股関節が相対的に外転位となるためであると思われる。さらに、床反力鉛直成分最大値及び床反力後方成分最大値との関連から、上部体幹の側屈角度の増大とともに足部と床の間に生じる前方方向への剪断力が減少し、全足底接地に近い状態で荷重が開始されていることが推測された。これらのことから、passenger unitである上部体幹の側屈角度はlocomotor unitとしての麻痺側下肢に影響を及ぼしていることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】 今回、1歩行周期における上部体幹角度の変化量に着目し、歩行自立度及び麻痺側下肢との関連について検討した。本研究の結果から、IC~LRにおける体幹の安定性は歩行の自立に必要な要素の一つであることが示唆され、脳血管障害片麻痺患者の歩行改善を目的としたアプローチの一助となると思われる。
- 公益社団法人 日本理学療法士協会の論文
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