仏教的教義を心理療法に組み込んだ治療を行い，良好な経過をたどった更年期不定愁訴の１例

概要

論文の詳細を見る
　5年間の薬物治療で改善が得られず，仏教的教義を組み入れた心理療法により症状の改善がみられた更年期不定愁訴例の治療経過を報告する．　症例は閉経後4年の女性．失感情症的，強迫的性格があり，幼少時より父親に陽性のストロークを受けずに生育した．離婚後生家で生活していたが，6年前に次男の他界後発症し，エストロゲン製剤，抗不安薬，種々の抗うつ薬による治療を受けたが症状の改善は得られなかった．3年前に母親が他界し，症状が増悪し，父親との2人暮しへの嫌悪感，たび重なる仏事での症状悪化により受診した．　薬物治療の継続とともに，終始「思いやり」と「慈しみ」の気持ちで接し，「あるがまま」の受け入れ，「諸行無常」の理解，「中道」の実践，および「執着」を捨て，「愛」を選択することからの「自己覚知」を代表とする仏教的教義を心理療法に取り入れた．本治療により，現在の自分の置かれた精神的，物質的状況を「ありのまま」に受け入れ，否定的現実も，見る方向を変えることにより肯定的現実に認知を変えることができた．治療2カ月より治療効果が出現し，症状の緩和が得られた．約2年の治療経過で「とらわれ」から解放され，エストロゲン製剤を廃薬，抗うつ薬，抗不安薬を1/2〜1/3量に減薬できた．主観的症状尺度は82から18に低下した．いわゆる「さとり」，あるいは「執着のなくなった自由無碍の境地」を獲得し，「自己実現」への第一歩を踏み出す心理状況に至ったと考えられた．　今回，不定愁訴で来院した更年期女性に行った心理療法の効果の程度を正確に説明することはできないが，少なくとも，長期の薬物療法によっても改善のみられない不定愁訴例に対する治療法の１つとして，仏教的教義を取り入れた心理療法を試みる機会は与えられるべきであろう．〔産婦の進歩57（3）：284-291，2005（平成17年8月）〕
近畿産科婦人科学会の論文

仏教的教義を心理療法に組み込んだ治療を行い，良好な経過をたどった更年期不定愁訴の１例

スポンサーリンク

概要

著者

関連論文

スポンサーリンク