後期更新世以降のニホンザル(Macaca fuscata)の大臼歯計測値に基づく時間的・地理的形態変異
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概要
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ニホンザル(Macaca fuscata)は本州,四国,九州と屋久島などの島嶼に分布しており,その化石は中期更新世以降の堆積物から多数発見されている.本稿では現生標本と化石標本の大臼歯計測値(歯冠の近遠心径と頬舌径)を比較し,後期更新世以降のニホンザル大臼歯サイズにおける地理的変異と時間的変化を検討した.現生標本は日光,伊那,伊豆,高浜,甲賀,嵐山,若桜,羽須美,中土佐,高崎山,屋久島の11産地を対象とし,雌雄分別して地域変異を調べた.その結果,日光,伊豆,嵐山産標本のサイズが比較的大きく,羽須美,高崎山産標本は比較的小さかった.しかし,各地の緯度および最寒月平均気温と大臼歯サイズの関係を調べたところ,明確な相関は得られなかった.一方でミトコンドリアDNAのハプロタイプに基づいて分けられている東日本の集団と中国・九州地域の集団間で平均値を比較すると,中国・九州地域(羽須美,高崎山)集団の方が有意に小型だった.また,日本の後期更新世,完新世の産地から発見されている化石・遺物標本を用いて現生種と比較した結果,後期更新世の標本は比較的大型で,特に頬舌方向に幅広い大臼歯をもつものが多く見られた.この特徴は完新世の種子島産標本と近畿地方の権現谷の蝶穴産標本にも認められ,逆に四国の上黒岩岩陰遺跡産標本は近遠心方向に大型の大臼歯をもっていた.一方,中国・九州地域の完新世化石標本は比較的小型で,現生の中国・九州地域集団と類似していた.この結果は,中国・九州地域において後期更新世末〜完新世初期に小型の大臼歯をもった集団が出現した可能性を示唆しており,現生種に見出された東西集団間の地域分化と関連していると考えられる.
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