因子分析による失語症状の解析(2) : 失語症因子と簡略な失語症検査法の開発
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概要
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1.目的本来の失語症検査は,経験的に必要と思われる鴬語行動の検査項目を網羅し,かつ信頼性の高いことが目標にされている.そのため検査項目は多く,検査に要する時間も長い.一方臨床的立場からいえば,少ない検査で適確に症状を把握することもまれる.そこで,失語症検査の妥当性の指標として失語症因子を取りあげ,少数の項目よりなる失語症簡易検査を開発することを試みた.この場合目的とする簡易検査は,失語症状に対する因子構造を変えずにしかも因子軸に対する因子負荷量が最大になるような検査からなる項目数の少ないテストバッテリーで,失語症患者のスクリーニングと大略な臨床分類が可能なものである.2.方法研究は次の益つの段階からなる,1)予備実験として,205例の失語症患者にSchuell-笹沼失語症簡易検査(検査項目数23)を行なつた結果について,因子構造を変えずに検査項目数を減らす方法を検討した.2)各臨床型のバランスのとれた失語症患者群すなわちSchuellの臨床分類I,III,IV,V,minorA各群それぞれ20例合計100例について,Schuell-笹沼失語症鑑別診断検査(試案II,検査項目数68)を用いた結果から失語症の因子を推定した.3)推定された因子構造指標として,予備実験で得られた方法を用い,上記鑑別診断検査から検査項目数の少ないテストバッテリーを作成した.因子分析の演算は,柳井のプログラムにより東京大学大型計算機センターで行われた.3.結果1)一般に,因予構造を変えずに検査項目数を少なくするためには,因子負荷量の大きい検査を各囚子あたり2個以上とればよいことが明らかになつた.その他に,検査の選択にあたっては,テストバッテリーの目的,検査内容,実施場面などに対する考慮も必要であることがわかつた.2)失語症の因子として,「言語行動の統合因子」,「視覚過程」,「語の認知」,「構音運動のプログラミング」,「計算能力」,「声器官の運動機能」の6個の隅子が得られた.このうち3〜4個の因子は,Schuellの解析や,Schuell-笹沼失語症鑑別診断検査および簡易検査を用いてすでに得られている因子と共通していた.「語の認知」と「計算能力」の2因子は今回はじめて得られたものである.3)68項はりなるSchuell-笹沼失語症鑑別診断検査(試案II)から14検査項目を選択して因子分析をおこなつたところ,最小の音声器官の運動機能の因子が視覚過程の因子に合併して抽出きれたことを除き,68検査項目の場合に類似した因子構造が得られた.14検査項目よりなる失語症簡易検査は,スクリーニング検査として有効であることが推論された.
- 社団法人 日本耳鼻咽喉科学会の論文
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