因子分析による失語症状の解析 (1) : 失語症因子と症状の把握について
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
1. 目的<BR>失語症患者を臨床の場で扱かう場合, いわゆる医学的診断とはやや趣きをことにして, もつばら言語症状よりタイプを分類し, その結果によって治療計画と予後のみとおしをたてることがおこなわれてきたが, 言語症状の把握および評価方法は必ずしも充分とはいいがたい. 著者は, 失語症患者の客観的診断を目的として, Schuell-笹沼失語症簡易検査 (試案II) による結果を用いて因子分析をおこなったので報告する. その具体的内容は, (1) 失語症状を構成する因子を明らかにして, (2) 因子による失語症診断を試み, (3) 症状の経過を得点でとらえることである.<BR>2. 方法<BR>検査は, 専門の言語治療士により失語症と診断された205例について実施された. 検査成績は, 一定の採点方式によって修正されたのち, 主因子解後直交回転による解析にかけられた. 計算は, 柳井のプログラムにより東京大学大型計算機センターでおこなわれた. 205例のうち5年以内の経過がおえた40例については, 因子得点で症状の変化をみた.<BR>3. 結果<BR>(1) 因子分析の結果, 6個の因子が抽出され, それらは「音声器官の機能」, 「言語行動の一般因子」, 「語音の再現」, 「文字の理解」, 「書字能力 (作文)」, 「文字の再現」と解釈された. 日本語の特殊性を示すような因子は得られなかつた. (2) 6個の因子に対する因子得点から失語症分類をおこなつた. まずそれぞれの因子の因子得点について正常・異常の境となる値を定めた. この値により各例について異常値を示す因子を求め, 因子の異常の組み合わせに基づいて症例の分類を試みた. その結果205例中95.7%は6群に分けられた. (3) 因子得点で数量化することによって各例の失語症状の推移が容易に把握されるようになった. また, 各因子によって推移状況が異なることが明らかとなった. すなわち, 変動が大きく改善しやすい因子, 全経過を通じて異常値を示したままその状態が変らない因子, 変動が少なく異常値を示すものでも急速に改善する因子の3つにわけられた. これらのうち, 症状の変化を把握するには, 「言語行動の一般因子」が最も適当であることがわかった.
- 社団法人 日本耳鼻咽喉科学会の論文
著者
関連論文
- 高次脳機能検査(老研版)による失語症患者と痴呆患者の比較
- 失語症の発症時年齢と関連要因 : 非言語的認知能力を中心に
- 脳血管障害性失語症患者269例の言語症状
- 因子分析による失語症状の解析(2) : 失語症因子と簡略な失語症検査法の開発
- 失語症患者における聴覚的理解障害の経過
- 脳梁の梗塞性病変による症候性吃音
- 因子分析による失語症状の解析 (1) : 失語症因子と症状の把握について