持続的家畜生産に向けた動物疾病制御への挑戦
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概要
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多くの国際機関の連携により,偶蹄類において伝染性の強いウイルス病である牛疫の根絶プログラムが2010年の達成を目標に進められている.この疾病はかつてアフリカ-ユーラシア大陸において猛威をふるい,多くの国で膨大な数のウシを死亡させた.牛疫は家畜生産を阻害するのみならず,耕作や輸送のための役畜を失うことで作物生産にも大打撃を与えた.その結果,牛疫は伝播した地域において農業全体に壊滅的なダメージを与えた.長い戦いの結果,この悪性伝染病はまもなく根絶されようとしている.牛疫の根絶の例のように,家畜衛生分野における科学技術の進歩が家畜疾病を防除し,ひいては畜産の発展に貢献しうることは間違いない.しかし,将来とも人類はすべての深刻な家畜疾病を克服できるだろうか.統計によると,畜産物の需要拡大に向けて,世界の畜産は急速に進展している.世界の畜産は北から南に向けて,あるいは温暖な地域から亜熱帯や熱帯地域に拡大している.それらの地域は十分な家畜衛生対策がとられておらず,疾病発生のリスクが高い.このような環境の中,近年の輸送手段の発展のために家畜や畜産物の国際間貿易が増大している.その結果,人獣共通感染症としての牛海綿状脳症あるいは高病原性鳥インフルエンザや,家畜疾病としての口蹄疫や豚コレラのような,新興・再興感染症を含む越境性動物疾病(TADs)が世界中の畜産業に大きな脅威をもたらしており,世界の食料安全保障を脅かしている.さらに近年の気候変動はアルボウィルス感染症であるブルータングや西ナイル熱のような節足動物媒介性感染症の流行地域の拡大を促進している.それゆえ,これらの疾病の防除は,世代や地域を越えて食料の安定供給を確保するための畜産の持続可能な発展を維持するために極めて重要である.TADsの発生は,気候変動,都市化,森林破壊,野生生物の分布等の環境要因に影響を受けやすい農業生態系における生物多様性と関連しており,TADsとの戦いには,さらなる獣医学の進展に加えて,学際的研究の推進が求められる.加えて,TADsの発生に関する早期警告を通じて疾病の拡大を防止するため,国際協力の強化は必須である.高度な疾病防除戦略に裏付けられた国際機関の役割は国際的な活動を強化するためにますます重要なものとなっている.
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