医療倫理と教育:4ボックス法を用いたMcCormick博士の講義ノート
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概要
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医療倫理の主な目的のひとつは,医療チーム内あるいは医療チームと患者の家族の間で倫理的ジレンマが生じた際,その臨床事例に関して協議する場を提供することである。そこで医療倫理という概念を理解するために,2006年3月,ワシントン大学のThomas R. McCormick博士によるセミナー「臨床場面における倫理教育:4ボックス法を用いて」が杏林大学で開催された。このセミナーの目的は次のようなものであった。(1)臨床場面における倫理的問題を含む事例研究に焦点を当て,(2)事例の研究と分析のために,共通の言葉と概念的枠組みを発展させる。(3)倫理的問題について議論し,自分の意見を伝え,他者の観点を聞くための実践セッションとしてこのセミナーを利用する。(4)ある事例やそれに含まれる親族関係についての我々の価値観,アイディア,感情を共有できるように開放的になる。(5)自分自身と自分の価値観をよりよく理解する。本セミナーでは,4ボックス法によりいくつかの臨床事例を分析し,議論を行った。4ボックス法は4つのトピック(医学的適用,患者の意向,QOL,周囲の状況)から構成されており,体系的な倫理的意思決定における有益なツールである。古典的事例であるBaby Doeの事例からは,障害をもった乳児に対する医学的治療の差し控えに関する判断は,周囲の状況(社会福祉システム,法的枠組み,あるいは乳児の家族の価値観)によって異なることが示された。87歳の慢性閉塞性肺疾患の男性の事例は,日本のみならず米国においてもありふれた事例だと思われるが,この事例では自律性とQOLの問題が示され,米国において生命に関する自律的意思決定がどのようになされるのかが示された。17歳の末期腎疾患のエホバの証人の事例は,患者の決断と家族の決断の間の葛藤に関わる問題であった。法的介入により17歳の未成年の決断を尊重することは可能であるが,それは家族にとって最良の選択とはいえないかもしれない。この事例から我々は,決断に至る過程が結果と同様に重要なものであることを見出すことができた。4ボックス法を用いてこれらの事例を分析することにより,倫理的ジレンマに直面した際,医療の専門家が体系的に倫理的意思決定に至る道筋が明らかになった。
著者
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下島 裕美
杏林大学保健学部心理学教室
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McCORMICK Thomas
ワシントン大学医史学・生命倫理学教室
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GAMOU Shinobu
杏林大学保健学部環境生命科学教室
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下島 裕美
杏林大学保健学部
-
蒲生 忍
杏林大学保健学部分子生物学
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McCORMICK Thomas
杏林大学保健学部環境生命科学教室
-
蒲生 忍
杏林大学保健学部環境生命科学教室
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