貧困調査のクリティーク(1)―『豊かさの底辺に生きる』再考―
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
本稿は,久冨善之編著『豊かさの底辺に生きる――学校システムと弱者の再生産』(青木書店,1993 年)を現在の研究視角から見つめ直したクリティークである。この共同研究は1980 年代後半から1990 年代初頭までの「バブル」の陰に隠れた日本社会の貧困をめぐって,北日本のB 市A 団地における調査をもとに,「貧困の再生産」や「剥奪の循環」といった定型像を打ち破ることを目指した意欲的なものである。では,この目的は実現されたのだろうか。この点について,「〈生活?文脈〉理解研究会」全メンバーが,認識枠組み(レンズ)の問題,調査における自己言及的なリフレキシビティ,青年層の理解,学校および教師に関する問題,住民のコミュニケーションなどについて各々の専門領域から検討し,定型像の押しつけや調査の方法論的限界という点を批判した。その上で,上掲書に内包された将来への可能性,そして今後の貧困をめぐる実証研究の方向性の提示を試みている。This review article concerns the Yutakasa no teihen ni ikiru:Gakkou shisutemu to jyakusya no saiseisan(Yoshiyuki Kudomi et al.,1993,Tokyo:Aoki syoten) from current sociological viewpoints. The book was an attempt to break the collective myth of the Japanese asset price bubble, by highlighting the realities of the lives of the dispossessed and dishonored, who resided in a housing project in a provincial city situated in Japan. The firsthand data presented by the authors enabled reconsideration of the discourse's stereotype such as"reproduction of poverty" or"cycle of deprivation."However, the book still relied on the common representations of destitution, as opposed to the scientific objects. This article,written by all members of the research project Seikatsu-Bunmyaku Rikai Kenkyukai , highlights the false ideas and methodologies used in the book, relating to the frame of constructing the research object, reflexivity to rupture stereotype images, understanding the youth,school,and teacher,as well as ways of research on the social relationships of the residents. In summary, the book reproduces the stereotypes of the residents as outcasts.Finally,some theoretical and methodological implications for the future studies of poverty are discussed.
- 2014-06-30
著者
関連論文
- これは何のための調査なのか--西尾市外国籍住民調査で問われ続けてきたこと (特集 外国人をめぐる調査)
- 西尾市県営住宅外国籍住民調査中間報告 (特集 日系ブラジル人)
- 経済不況下におけるブラジル人コミュニティの可能性--愛知県西尾市県営住宅の事例から
- 〈地元〉の不変性とダイナミズム--〈地元〉周縁に生きる沖縄の下層若者から (排除の経験を生きる)
- 仕事ないし、沖縄嫌い、人も嫌い--沖縄のヤンキーの共同性とネオリベラリズム (特集 若者と労働)
- 植民地沖縄におけるネオリベラリズムと反抗--ヤンキー・サブカルチャーズ研究序説
- 2008年度西尾市外国人住民調査報告
- 裁判で敗訴した〈暴走族〉/裁判を流用した〈暴走族〉--走れない〈暴走族〉の排除と抵抗
- 中途障害者の自尊感情と自己受容 : 障害受容のために
- 占い・おみくじをめぐる学際的研究
- 暴走族をめぐる排除の論理--ゼロトレランス政策は、いかに広島市の暴走族排除に適用されたのか
- ニューカマー外国籍住民集住地域の比較研究に向けて : 地域からとらえる視点の可能性
- 「孤独死」・「孤立死」をめぐる地域的対応--愛知県愛西市の事例を中心に
- 日本における内発的発展論の展開とその課題 : 費孝通氏の「模式論」からの示唆
- ブラジル人集住都市における日本人住民の意識(2)愛知県西尾市ブラジル人住民集住地域における町内会・自治会役員の語りから
- 愛知県西尾市における3県営住宅の比較分析 (外国籍住民の増加にともなう県営住宅の現状と地域的展開)
- 外国籍住民の増加と地域再編 (1)-愛知県西尾市を事例として- : (1) 地方都市における地域集団活動活性化のメカニズム
- 白樫久『地域社会の変動と住民 1960-2000』
- 大学における地域連携・地域貢献と社会調査をめぐるノート
- 市民農園の福祉的展開の可能性--愛知県西尾市「楽農園」の事例から--
- 沖縄の暴走族とゴーパチ
- 1-2.型枠解体屋の民族誌/建築現場における機械的連帯の意義
- 中村則弘著『脱オリエンタリズムと日本における内発的発展』
- リーマンショック後の経済不況下におけるブラジル人労働者--A社ブラジル人調査から
- 見えていなかったこと/見ていなかったこと
- 「孤独死」・「孤立死」問題へのアプローチ--愛知県愛西市の取り組みから
- コミュニティと排除(上)
- 沖縄の暴走族の文化継承過程と : パシリとしての参与観察から
- 経済不況下におけるブラジル人の生活状況と今後の展望 : A社調査、長浜市調査の比較から
- オキナワン・ヤンキー・サブカルチャーズ : 〈日本〉と沖縄の暴走族の組織原理に注目して
- 「サクセスフル・エイジング」と「農」の活動--愛知県における3団体の比較分析から
- 地域ベースの共生論は外国人の社会参画に届くのか? : 愛知県西尾市の事例から
- 外国籍住民集住都市における日本人住民の外国人意識--愛知県西尾市,静岡県旧浜松市,長野県飯田市調査から
- 都市部における非農業者主体の「農」の活動の展開―愛知県長久手市、日進市の事例から―
- 都市における農の活動をめぐって
- 書評 Goodwin, Jeff and Ruth Horowitz, 2002, "Introduction: The Methodological Strengths and Dilemmas of Qualitative Sociology", Qualitative Sociology, 25(1) : 質的調査法をめぐる諸論点
- 地域から多文化共生を考えることの意味 : 公営住宅からの視点
- にっぽんど真ん中祭りと愛知の祭り文化
- 建築業から風俗営業へ : 沖縄のある若者の生活史と〈地元〉つながり (特集 労働力の再編と排除)
- 長久手市地域福祉計画策定に向けての市民意識調査報告
- 1. ***になること : 沖縄で働く女性たち(IV-9部会 【テーマ部会】教育をめぐる排除と包摂(3),研究発表IV)
- 新たな貧困調査研究の構想のために--日本国内の貧困研究の再検討から
- Goodwin, Jeff and Ruth Horowitz, 2002, "Introduction: The Methodological Strengths and Dilemmas of Qualitative Sociology", Qualitative Sociology, 25 ⑴ : 質的調査法をめぐる諸論点
- 裁判で敗訴した〈暴走族〉/裁判を流用した〈暴走族〉: 走れない〈暴走族〉の排除と抵抗
- 貧困調査のクリティーク(1)―『豊かさの底辺に生きる』再考―
- コミュニティと排除(下)
- 高齢者の「関係性の貧困」と「孤独死」・「孤立死」:― 愛知県愛西市の事例から ―
- 高齢者の「関係性の貧困」と「孤独死」・「孤立死」 : 愛知県愛西市の事例から (都市社会学は「貧困」にどう向き合うか)
- 沖縄の暴走族の文化継承過程と : パシリとしての参与観察から