公有林における利用問題と経営展開に関する研究(1) : 山梨県有林の利用問題
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概要
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わが国の公有林は,幕藩時代の「入会山」を母胎として形成されため,明治後期以降に公有林が林業経営の対象となるに及んで,公有林地元住民の入会利用と対立関係を生じてくる。入会利用排除は地元住民の反対により容易に進まないのはむしろ当然であるが,公有林所有主体は妥協を伴いつつ,地元住民の利用と権利関係の変質を強い,公有林上の林業経営地を拡大させてきた。本論文においては,以上の総体を公有林における「利用問題」と表現し,公有林のあり方に関して地元住民の主体的利用ないし受益の関係を特に重視し,分析の視点とした。従来から公有林の所有と経営,そして地元住民の利用をめぐる諸問題の解明は,林政学の重要なテーマの1つであったが,最近の林業経営の不振と林地開発指向の高まりは,公有林の経営と利用のあり方に新たな問題を提起している。本論文の課題は,公有林の経営と利用がいかなる要因によって変化し,そこにいかなる問題が存在するかを解明し,今後のあり方にに対して政策的展望を見い出すことにある。この課題は,個別的事例の歴史的分析の積み重ねによって初めて解明されるとの観点から,本論文では,山梨県有林を取り上げ,その成立から現代までの経営と地元住民の利用の推移の全貌の解明に努めた。最初に論文の課題と方法を述べた。それは上記したとおりであるが,わが国の公有林の歴史的及び現代的諸問題を整理して,公有林の一つの典型ともいうべき山梨県有林の特徴を示し,公有林研究における山梨県有林の位置付けと意義を明らかにした。ついで,山梨県有林における「利用問題」の展開過程を解明した。本問題の根源は,「入会山」の官民有区分による山梨県における官有林・御料林優位の林野所有の形成と,所有主体による林業経営の確立のための入会利用排除,それに反対する地元住民の闘争にあった。そのことが県有林成立に結び付くのだが,県有林成立後山梨県は,地元住民を「保護団体」に組織し,入会利用に関する種々の権利を「制度」化することによって問題を解決し,一方で林業経営の確立を図った。山梨県と「保護団体」とは,協力と対立ないし互いに制約する2面的関係に立っている。現在,県と「保護団体」の林業利用が後退し,県は林地開発利用を指向し,「保護団体」もそれを容認しているが,地元住民との新たな関係がどう構築できるかが,「利用問題」の核心である。そして,新たな関係を構築するためには,地元住民の県有林利用についての積極的な意思の表明と運動が必要であると結論付けた。The public forests in Japan are basicalliy formed from common lands. When the public forests became subject to forest management of governmental bodies since late Meiji Era, there arose a conflict with the interests of the local people and the local utilization. Athough it is natural that excluding local utilization is difficult because of opposition of the local people, the area subject to forest management in public forests has been expanding as the public forest owners made compromises to change the relationship and rights of the local people in its utilization.
- 東京大学大学院農学生命科学研究科附属演習林,The Tokyo University Forests,東京大学農学部附属演習林北海道演習林,University Forest in Hokkaido, Faculty of Agriculture, The University of Tokyoの論文
著者
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