天然林トドマツの健全度に関する研究 : 東京大学北海道演習林の事例
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概要
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東京大学北海道演習林で針葉樹を中心とした樹木の梢端部の異常落葉現象が観察され,継続的なトドマツの衰退現象の観察を始めた。観察木のうち着葉量が少ない樹木は,雄花の着花が多く,地衣類の着生が多くなる傾向が認められた。伐倒木の梢端部の着花・着葉調査から雄花および球果の着生は健全木に少なく,衰弱木に多いという傾向が認められた。また,透け型(B)を呈する衰弱木の梢端部10年生枝までは健全で枯死が見られなかった。これに対して健全木は,15年生枝においても着花が認められなかった。以上のことから,衰弱木は樹高成長が小さく枝の発達が貧弱なところに球果と雄花が同じ範囲に多量に着生することによって着葉量の低下,枝枯れをさらに早めているように考えられる。年輪解析の結果,外観上「不良」と判断された樹木は「健全」と判断されたものに比べて最近10年間の成長が半分以下になっており,固定標準地内の着葉・健全度調査からも連年成長量は樹木の健全度と相関が高いものと認められた。この結果をもとに固定標準地の成長資料から1970年代と1980年代の森林の状況を推定したところ施業林分ではほぼ同じ状態で保たれており,非施業林分では風害の影響により衰弱木が淘汰され,残存木の成長が促進されているという結論を得た。以上のことから演習林のトドマツについては近年特に衰弱木の割合が高くなったとはいえないので,酸性雨や酸性霧の影響はいまのところ考えられない。Abnormal defoliation of Saghalien Fir (Abies sachalinensis) tops was observed in the Tokyo University forest in Hokkaido and so continuous observations were commenced. Sample trees which had poor needles showed a tendency to set many male flowers and were colonized heavily by lichens etc. Investigation of felled sample trees showed that "nomal" trees set fewer male flowers and cones than "abnormal" trees. However, whorl branches less than ten years old at the top of "abnormal" trees were healthy. Normal trees set no male flowers even on fifteen year old whorl branches, while "abnormal" trees set cones and male flowers on this part of the crown. Accordingly, in "abnormal" trees the number of needles decreased and dieback increased. These trees also had poor height growth and development of branches. Stem analysis of sample trees showed that "abnormal" trees as judged from external appearance grew less than half as much as "normal" trees during the last ten years. Evaluation of sample trees in the experimental plots suggested that the periodic annual increment of d.b.h. was correlated with health indicators. Based on this information, the authors estimated the health condition of the entire University forest during the 1970's and 1980's. In managed stands the health condition was stable, but in unmanaged stands residual trees grew more than in managed stands due to the removal of trees weakened by typhoon damage in 1981. From the above results; i.e. the correlation of growth with health indicators and stand growth rates, no increase in the ratio of "abnomal" trees due to any influence of acid rain or acid mist in the University forest could be detected.
- 東京大学大学院農学生命科学研究科附属演習林,The Tokyo University Forests,東京大学農学部附属演習林北海道演習林,University Forest in Hokkaido, Faculty of Agriculture, The University of Tokyoの論文
著者
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芝野 伸策
東京大学農学部生命科学研究科北海道演習樹木林
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大橋 邦夫
東京大学農学部附属演習林
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佐藤 昭一
東大 農 北海道演習林
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有沢 浩
東京大学北海道演習林
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芝野 伸策
東大 大学院農学生命科学研究科 演習林北海道演習林
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Shibano Shinsaku
University Forest In Hokkaido Graduate School Of Agricultural And Life Sciences The University Of To
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Shibano Shinsaku
University Forest In Hokkaido Graduate School Of Agricultural And Life Sciences The University Of To
-
山本 博一
東大 大学院
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