ブルガリアにおけるEU加盟後の羊の移牧の変貌
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概要
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EU加盟を2007年1月に果たしたブルガリアにおいて、羊の移牧の現状を調べ、持続的発展が可能かどうかの調査を行った。その上で、既に2003年以来調査を進めているルーマニアの羊の移牧との対比を行なった。この結果、ブルガリアのロドピ山脈においても羊の移牧の原型は二重移牧(intermediate-stationed transhumance)であったが、国境が変化することにより、冬の宿営地であったギリシャのエーゲ海沿岸や、黒海沿岸の放牧地を失い、第二次バルカン戦争と第一次大戦後は垂直移牧(ascending transhumance)のみを行うことになった。また、第二次大戦後は社会主義化された大規模な移牧が行われていたことを聞き取りによって明らかにすることができた。社会主義体制下で、牧童は高級技術者として迎えられ、1,400~1,700mの準平原へ羊を連れていく“夏のキャンプ”が大規模に行われていた。社会主義体制下では、羊の頭数は現在の約5倍であり、草地は強いストレスを受けたと考えられる。しかし、1989年以降の社会主義体制の崩壊によって、羊も牛の激減した。その結果、草地には灌木が侵入し、かつての広大な草地の大部分は現在は灌木林となっている。ブルガリアでは、EU加盟によって小規模農業(200頭以下)が廃業する一方、羊の小規模農業(200頭以下)をEUの助成金によって新たに支援する方法もとらえられていることが明らかになった。ルーマニアでは、小規模農家(200頭以下)が廃業し、1000~2000頭の大規模な移牧に移行し、EUの条件に沿うように努力している。移牧において社会主義化を徹底して行なったブルガリアと、ルーマニアの中で社会主義化を行なわなかった地域の移牧では、その後の発展に大きな違いがあることが明らかになってきた。いずれの国においても、移牧の持続的発展を続けていくためには、新しい方向を模索しなければならない時代に突入している。 In order to study the possibility of sustainable development of sheep transhumance in Bulgaria since joining the EU in January 2007,an attempt is made to compare with the results of the previous studies since the year 2003. It was clarified that: (ⅰ) the intermediate-stationed transhumance of sheep has been seen also in Bulgaria as an original type, and (ⅱ) due to the change of border, ascending transhumance has been found only after World War Ⅰ in the Aegean Sea coastal area of Greece and in the coastal area of Black Sea, Romania, where the winter stations were settled. These results were obtained based on interviews with people on the large scale transhumance under the socialistic conditions. Among them, the following interesting points are noted: (ⅰ) Shepherd warmly received as high standard technologists, who moved sheep to the peneplains at 1,400-1,700m a.s.l. for the summer camps. (ⅱ) Number of sheep under the socialist regime was about five times more than present and this might have resulted in strong stress for the grass land. (ⅲ) Numbers of sheep and cow decreased sharply after the collapse of the socialist regime in 1989, and as a result, bush invaded to the grass land developing the bush forests in the broad former grass land. Small scale farmers holding fewer than 200 heads of sheep in Bulgaria have been closing their business after joining the EU. On the other hand, there is a policy that they are supported by the subsidy from the EU. In Romania, the small scale farmers keeping fewer than 200 heads of sheep have closed and, instead, the large scale sheep transhumance with 1,000-2,000 heads is developing for the sake of fitting to the hard conditions after joining with the EU, which intends to establish modernized industry. It is worth pointing out that there is a difference between Bulgaria, which took a stringent policy for transhumance under the socialist regime, and Romania, which did not do so. The sheep number of transhumance has increased 10 times after the collapse of the socialist regime in Romania. Land degradation has progressed also after EU Membership. It is thought that both countries should find own way for sustainable development of sheep transhumance.
- 2008-10-10
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