休閑田におけるコガタアカイエカ幼虫の生存率と死亡要因
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
長崎では,コガタアカイエカの越冬からさめた雌成虫は3月下旬に出現し,それ以後,6月末の田植までの期間は,主に休閑中の湿田から発生する.そこで,休閑田における本種幼虫の生存率と死亡要因を明らかにするために野外実験を行った.捕食性天敵が自然状態で存在する枠内に放された幼虫が成虫として羽化する率はきわめて低く,平均約2%であった.枠内の天敵密度が高いほど羽化率は低かった.天敵を除去した網内での生存率は顕著に高く,ここでは水の干上がりと水質不良が主な死亡要因であった.捕食による死亡率は密度非依存的で,また干上がりや水質不良による死亡率に比べて気象条件の年次的変動に影響されにくいと考えられた.殺虫剤による休閑田の幼虫駆除は盛夏の成虫個体数,ひいては日本脳炎患者数を減少させる効果に乏しいのみでなく,天敵を殺してしまうことにより本種が増殖しやすい条件をつくりだす危険もある.従って,この季節の駆除は,天敵に及ぼす影響のごく小さい方法に限定した方がよい.休閑田の幼虫に対する大量生産した寄生虫の散布,畜舎に集まる成虫のライト・トラップによる捕殺などは好ましい方法であろう.沖縄の条件は本土とはことなるので,上の考えをそのまま適用することはできない.Survival rates and mortality factors were studied with larvae of Culex tritaeniorhynchus, a vector mosquito of Japanese encephalitis (JE) virus, by field experiments in fallow rice fields before summer cultivation in Nagasaki, Japan. Adult emergence rates were very low in experimental quadrats with a natural complex of predators including aquatic insects and fishes, the average being 0.02. Higher the predator density, lower the emergence rate. Emergence rates increased notably in enemy-free cages where partial drying and unsuitable quality of water were main mortality factors. The mortality rate due to predation was considered to be density-independent and less influenced by the yearly fluctuation of weather conditions than the mortality rate due to drying or unsuitable quality of water. It was also considered that chemical control in spring or early summer is ineffective to suppress the peak abundance in midsummer and consequently to prevent the JE epidemic. Chemical control in this early season may even be followed by population explosion in midsummer through the elimination of predators. It is desirable that control in this early season depends on methods highly specific to mosquitoes including tritaeniorhynchus such as the application of mass-produced parasites to breeding places. Adult control by light traps operated at animal houses may be most practical at the present time of Japan.
- 1980-03-28
著者
関連論文
- 蚊の空間分布への景観生態学的アプローチ
- 媒介蚊の地理的変異と媒介能に関する研究
- 蚊の野外個体群の防除に関する研究
- 6 トウゴウヤブカ幼虫個体数の季節的消長について
- 蚊体内におけるマレ-糸状虫(済州島系)のミクロフィラリアの脱鞘と移動〔英文〕
- 3 グァテマラ国の家屋内に生息している全サシガメ数と分布
- 水田におけるコガタアカイエカ未成熟期の生存率と死亡要因
- 休閑田におけるコガタアカイエカ幼虫の生存率と死亡要因
- 6 水ガメに発生するアカイエカ群の雄の外部生殖器の形態について
- 日本脳炎ウイルスのコガタアカイエカ体内での越冬の可能性についての考察
- A13 石垣島野底地区における植生と優占蚊種の関係 : 96 年 7 月の調査結果
- 3 Man-vector contact を左右する環境要因 (I) : 媒介蚊生息環境の植生写真による評価
- 110 植生写真解析による蚊生息環境の記載と評価 : 95 年 8 月石垣島の結果
- 103 コガタハマダラカ発生地域での蚊相の場所的相違 : 95 年 8 月石垣島の結果
- 10 標識再捕獲法によるコガタアカイエカの吸血飛来行動の解析の試み(その 2)
- 被覆植生除去によるマラリア媒介蚊の増加
- 長崎産ヒトスジシマカの卵休眠と越冬について〔英文〕
- 10 男女群島のカミキリモドキ
- 13 男女群島における海上飛来蚊の調査
- 8 野外のヒトスジシマカ幼虫個体群に付け加えられた mutant の生存と発育について
- 日本産のCulicoides属segnis群(双翅目,ヌカカ科)の種について
- (5) パイロット地区内での伝播機構(第 31 回日本衛生動物学会大会シンポジウム講演グァテマラのオンコセルカ症 : 媒介者防除の現状と展望)
- 4 ヒトスジシマカにおける幼虫密度と餌の量の影響
- 1 ヒトスジシマカの突然変異体 white body について
- 28 ヒトスジシマカの幼虫密度が成虫の行動におよぼす影響について
- コガタアカイエカの未吸血未経産雌の濾胞の退化
- ヒトスジシマカの季節的消長
- 7 日本産 claggi group のヌカカについて
- 5 角砂糖を用いての蚊成虫の飼育について
- 3 未成熟期ヒトスジシマカの年令構成の季節的変動
- 樹洞に発生する蚊群集の生態学的研究
- 2 グァテマラ国に分布するサシガメの卵の大きさと形態比較
- 8 石垣島におけるコガタハマダラカの発生源からの分散(記号放逐法による吟味)
- 2 コガタハマダラカ幼虫の分布様式と流速との関係について : 石垣島及びタイ国チェンマイにおける調査結果
- 宮城一郎編著 : 蚊の不思議・多様性生物学, 2002, 東海大学出版会, 254頁, 2800円+税
- 7 Pyriproxyfen によるヒトスジシマカの羽化阻害実地試験
- 2 系統のヒトスジシマカ(日本及びタイ国産)で観察された幼虫密度に対する反応の違いについて
- 放逐されたヒトスジシマカの時間的空間的分布
- 放逐されたヒトスジシマカの移動と産卵
- A-3 川岸の被覆植物除去がコガタハマダラカ幼虫の発生密度に与える影響
- 八丈島で観察されたオオクロバエの生活史
- 17 北部タイにおける水田稲作と日本脳炎媒介蚊幼虫の発生
- 16 北部タイにおける日本脳炎媒介蚊成虫の採集結果
- 4 石垣島の牛舎におけるコガタハマダラカの終夜採集結果
- MOSQUITO ECOLOGY. Field Sampling Methods M. W. Service, Department of Medical Entomology, Liverpool School of Tropical Medicine, Liverpool, England, Applied Science Publishers Ltd., London, 1976., 583pp
- 15 北部タイにおける日本脳炎媒介蚊幼虫と捕食性天敵について
- 13 北部タイにおける日本脳炎媒介蚊成虫の採集結果(1992 年)
- 12 北部タイにおける日本脳炎媒介蚊幼虫の採集結果(1992 年)
- 11 北部タイにおける日本脳炎媒介蚊の生態学的調査と水田稲作の概要
- 10 タイ国各地における日本脳炎媒介蚊の発生消長
- 3 標識再捕獲法によるコガタアカイエカの吸血飛来行動解析の試み(その 3)
- 97 北部タイにおける Anopheles minimus の吸血嗜好性
- 22 北部タイ山脚部のアノフェレス相とそれらの吸血習性について
- ヒトスジシマカの個体群増殖に関する実験 : 長崎系統とチェンマイ(タイ)系統の比較
- 98 ヒトスジシマカ幼虫の密度効果
- A-13 Population cage を用いたヒトスジシマカの実験個体群生態(蚊の個体群)
- 吸血間隔と幼虫餌量の違いがヒトスジシマカ実験個体群の増殖に与える影響
- 26 ovitrap の深さの違いが水位変動およびヒトスジシマカ幼虫個体群の発生消長に及ぼす影響
- 11 ヒトスジシマカ雌成虫の個体群パラメーターの季節的変化について
- A-15 北タイの山脚部における数種アノフェレスの記号放逐による分散実験結果(蚊の個体群)
- 創立 50 周年にあたって