ヒトスジシマカの季節的消長
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概要
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長崎大学医学部構内の独立した林の中に,ガラス容器を自然のままに放置し,3年間にわたって毎週1回それぞれの容器に発生したヒトスジシマカの発育段階と数を調べると共に,同じ林の中で人を囮として成虫の採集を行った.その結果次の事が明らかとなった.長崎では卵のみで越冬し,それは3月中旬から4月中旬にかけてふ化し,羽化は5月上旬から中旬に見られた.第2世代の幼虫は6月上旬,第3世代は6月下旬-7月上旬に現れた.第4世代以降は明確に区別し得なかった.7月中旬から8月上旬に幼虫数は急激に増加し,年間最大の山が形成された.9月中頃からふ化幼虫は減少し,11月からは成虫の羽化もみられなくなり残っていた幼虫,蛹は冬の寒さで死滅した.幼虫数の変動,特にふ化幼虫数には雨量が大きく影響していると考えられる.また幼虫数と発育との関係をみると,春や初夏の低密度の時にはま幼虫期間は短く生存率が良いのに対し,夏の高密度の時には幼虫期間は長く生存率は低い.これは高密度においては餌の不足あるいは発育阻害物質の生産が密度を抑制するよう働いているものと思われる.その結果,蛹の数には幼虫数のように大きな変動はみられず,一年を通してほぼ安定している.成虫数の変動は蛹の数の変動にほぼしたがっている.野外では夏の高密度期には,好的条件で飼育したよりはるかに長い幼虫期間を要するので,発育零点と有効積算温度から推定された年間世代数は過大評価されていると思われる.The seasonal abundance of Aedes albopictus was observed for three years. From the results, following things were made clear. Only eggs can survive through winter in Nagasaki. when the larval density is high in mid-summer, high mortality and delay of development are found during the larval period. While the larval density is low in spring and early summer, the survival and developmental period are as normal as under the optimal experimental condition. Since the number of daily emerging adults is considered to be kept nearly constant from May to August, the adult population of Ae. albopictus in a certain area is dependent largely upon the abundance of larval breeding places.
- 長崎大学熱帯医学研究所,Institute of Tropical Medicine, Nagasaki Universityの論文
- 1978-03-30
著者
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