アサヒホラゴケモドキ(タイ類)の分類学的研究
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概要
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著者らは最近,青森県と秋田県の県境にある白神山地において,フソウツキヌキゴケCalypogeia japonica Steph.と思われるが,アサヒホラゴケモドキCalypogeia ovifolia Inoueに非常に良く似ている植物体を採集した.そこで,この両種を分類学的に比較検討した.フソウツキヌキゴケは,青森県の岩木山の麓にある嶽から新種として記載され,その特徴は葉が卵形〜長卵形で円頭であること,腹葉は広円形で,長さ1/3-1/2まで2裂し,切れ込み部はU字〜V字形で,両基部の細胞が長く細長いこと,油体に眼点を持つことなどとされている(Amakawa 1958, Furuki & Ota 2001).一方,アサヒホラゴケモドキは井上(1983)によって新種として記載された苔類で,これまで山形県の朝日岳に固有とされている.その特徴は,葉が卵形〜長卵形で円頭であること,腹葉がやや円形に近く,長さ1/2まで2裂し,各裂片は広がらず,切れ込み部が狭く,へりにも歯を持たないこと,油体が無数の細粒から構成されることなどである.すなわち,この2種は,葉は共に円形〜楕円形で先端が常に円頭で,基部が沿下し,非常に似ているが,腹葉と油体の特徴によって,同属の他種及び互いに容易に区別できるとされている.しかし,白神山地で採集した植物体は,多くの腹葉は切れ込み部が広いが,しばしば狭い形のものが見出された.また,その油体は無数の細粒からなるが,まれに眼点が観察できた.すなわち,この両種の中間的なものであった.そこで,白神山地及び岩木山嶽産の植物体を詳細に調べ,加えて両種の基準標本を再検討した.その結果,アサヒホラゴケモドキの基準標本では,切れ込み部が狭いとされる腹葉は頻繁に広がることがあり,腹葉の基部の細胞は長い細胞からなっていることが分かった(Fig. I).また,最も大きな特徴の一つとされる油体に関して,井上(1983)は無数の細粒からなるとしているが,井上(1983)のfig. 1-1,1-2には眼点のある油体が示されており,その形は両先端がやや細くなる長楕円形をしている.また,フソウツキヌキゴケの油体は眼点を持つとされているが,青森県岩木山嶽産の植物体を調べた結果,全ての油体に眼点があるとは限らず,しばしば眼点のないものがあった(Fig. II).すなわち,腹葉と油体の特徴では,この両種は区別できないという結論に至った.また,白神山地もこの両種が記載された場所も,ブナ帯であり,湿った土の上であるなど,生態的にもきわめて良く一致し,地理的にも近い場所である.これらのことから両種は同種であるとの結論に達し,アサヒホラゴケモドキをフソウツキヌキゴケの異名とした.
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