フソウツキヌキゴケの分類学的研究
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概要
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フソウツキヌキゴケCalypogeia japonica Steph.はFaurieの標本に基づき,1924年にStephaniによって新種として記載された.しかし,その後長い間,この種について言及した論文はなかった.井上(1966)は,本種の正基準標本が見当たらないとして,Uematsuが採集したStephaniの同定による標本を新基準標本として指定した.しかし,その分類学的な検討を十分には行っておらず,現在まで不明種として扱われてきた.そこで,本種を分類学的に検討した.まず,基準標本からは以下のことが判明した.1.ジュネーブ市立植物資料館(G)においてStephaniの採集品を再検討したが,正基準標本は見つからなかった.2.正基準標本の採集産地はStephaniのイコネスにDakeと書かれており(Stephani 1985),Faurieの足跡から青森県岩木山の麓にある岳(または嶽)である.3.Uematsu(植松栄治郎)の採集による新基準標本(G-9720)の採集産地は不明である.しかし,土の上に生育していたもので,アカウロコゴケNardia assamicaが混生していることから低地で採集されたものであろうと推論できる.4.新基準標本の植物体の形態は以下の特徴を持つ:(1)無性芽を豊富につけている.(2)葉は円頭である.(3)葉の細胞は中央部で35-50×27-32μm,薄壁である.(4)腹葉は逆U字形に茎につく.(5)腹葉は2裂し,側縁は全縁である.(6)腹葉基部は長く沿下し,その細胞は細長くなる.(7)土の上に生育していた.5.新基準標本の特徴はStephaniによる記載や図と一致し,井上(1966)の新基準標本の指定は支持できる.次にフソウツキヌキゴケの分類学的な正体を探るために,上記の基準標本の内,最も産地が限定できる正基準標本の採集地である岳において調査した.岳で生育が確認された種は次の通りである:チャボホラゴケモドキC.arguta,タカネツキヌキゴケC.neesiana subsp. subalpina,トサホラゴケモドキC.tosana,ツクシホラゴケモドキC.tsukushiensis.これら4種の中で,ツクシホラゴケモドキは,C.japonicaの基準標本と特徴が一致することが判った.ツクシホラゴケモドキはAmakawa(1958)によって九州から記載された.井上(1966)はツクシホラゴケモドキの腹葉は沿下しないとしているが,基準標本を調べた結果,これは誤りであることが判明した.また,葉の細胞の形や大きさに違いがあるとしているが,これについても差がないことが判った.すなわちフソウツキヌキゴケとツクシホラゴケモドキの特徴は一致し,同種であるとの結論に達した.従って,C.tsukushiensis AmakawaをC.japonica Steph.の同種異名にすることを提唱する.なお,和名は飯柴(1930)によって命名されており,昔,中国で日本を指す言葉であった「扶桑」を意味し,学名の種小名であるjaponicaに由来している.
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