東日本大震災におけるDMAT活動と今後の研究の方向性
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概要
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背景:今日の急性期災害医療体制は,阪神淡路大震災の反省に基づき研究が行われ,研究成果が国の施策に活かされることにより構築された.その本幹を成すものは,災害拠点病院,DMAT(災害派遣医療チーム),広域医療搬送計画,EMIS(広域災害救急医療情報システム)の4本柱である.今回の震災においては,くしくもこの新しい急性期災害医療体制が試される結果ともなった.しかしながら,今回の震災における医療ニーズは,阪神淡路大震災とは全く違ったものであった.DMATにおいても,これまで超急性期の外傷を中心とする救命医療に軸足を置いてきたが,今回の震災においては,また新たな対応を要求された.目的:今回の震災においてDMATの医療活動が効果的に行われたか後方視的に検証し,課題を抽出することにより,DMAT事務局として今後のDMATのあり方に関する研究の方向性を示すことを目的とした.方法:2011年3月11日発生した東日本大震災に対して,DMAT380チーム,1,800人の隊員が全都道府県から出動した.全380チームの活動報告書を基に,指揮命令系統,病院支援,域内搬送,広域医療搬送,入院患者避難搬送などそれぞれのDMAT活動実績をまとめ,課題を抽出した.活動報告書は著者らが所属するDMAT事務局が共通フォーマットを作成し,2011年6月にインターネット配信し回収した.結果:今回の震災では,DMAT隊員1.800人を超える人員が迅速に参集し活動した.指揮命令系統においては,国,県庁,現場まで統括DMATが入り指揮を執った.急性期の情報システムも機能し,DMATの初動はほぼ計画通り実施された.津波災害の特徴で救命医療を要する外傷患者の医療ニーズは少なかったが,被災した病院におけるDMATの病院支援は十分に効果的であった.本邦初めての広域医療搬送が行われたことも意義があった.また急性期の医療ニーズが少なかった一方で,発災後3〜 7日に病院入院患者の避難等様々な医療ニーズがあったが,このような医療ニーズに対してもDMATは柔軟に対応し貢献した.考察:本震災において行われた急性期災害医療を,阪神淡路大震災時と比較すると,被災地入りしたDMATの数だけをとっても,隔世の感を持って進歩したと言え,これまでの研究の方向性が間違っていなかったことが証明された.しかしながら,今回の地震津波災害においては,阪神・淡路大震災に認められなかった様々な医療ニーズが出現し,その中には今まで研究されていない領域のものもあった.東海・東南海・南海地震が連動した場合は,今回と同じ医療ニーズが生じると考えられ,DMATに関しては,これまでやってきた阪神淡路大震災タイプ(直下地震)の対応に加え,更なる対応が必要と考える.研究の方向性に関しても,今まで課題に挙がっていなかった部分を,今回の教訓をもとに進めて行く必要がある.
- 2011-12-00
著者
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辺見 弘
防衛医科大学校 防衛医学講座
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辺見 弘
日本DMAT検討委員会
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小井土 雄一
国立病院機構災害医療センター臨床研究部
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小井土 雄一
国立病院機構災害医療センター
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近藤 久禎
国立病院機構災害医療センター
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小早川 義貴
国立病院機構災害医療センター
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近藤 久禎
国立病院機構災害医療センター臨床研究部
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市原 正行
厚生労働省医政局災害対策室DMAT事務局
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近藤 久禎
国立病院機構 災害医療センター臨床研究部政策医療企画研究室
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