血液学におけるテロメアとテロメレース
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
テロメアDNAは染色体末端に存在する反復配列で、ヒトではTTAGGGの繰り返し配列が2-15 kbの長さで続いている。正常細胞では1回の細胞分裂に伴い50~200塩基が短縮し、一定の長さまで短縮すると細胞は分裂を停止することから、細胞内分裂時計としての役割を持っている。 二本鎖DNAは、テロメアの末端部位では、DNAの3'末端が突出してG-tailと呼ばれる50~100塩基の一本鎖となっている。 さらにテロメア末端はT-ループと呼ばれる特徴的な構造をとり、その先端である一本鎖DNAは二本鎖DNAの間に潜り込み、D-ループと呼ばれる三重鎖構造を形成する。この構造がエキソヌクレアーゼなどによるDNAの分解を防ぎ、染色体の安定性を確保している。テロメアが極端に短縮するとT-ループを形成することができなくなり、DNA修復機構によって切断されたDNAとして認識される結果、細胞周期の停止や細胞死の誘導が起こる。テロメアに局在する蛋白質は、telomere repeat binding factor 1 (TRF1)、TRF2、TRF-interacting nuclear protein 2 (TIN2)、Rap1、TPP1、POT1などがある。それらがShelterinと呼ばれる複合体を形成することでテロメアの構造形成や保護、テロメア長の調節を行っている。 生殖細胞や癌細胞ではDNAの複製を無限に行うことができ、テロメア配列を新たに合成する酵素テロメレースが存在することが知られている。テロメレースは逆転写酵素の1つで、テロメア配列を伸長、補修することによりテロメアを介した細胞の分裂能および染色体の安定性を維持している。その構造は酵素活性に最も重要な触媒ユニットhTERT (human telomerase reverse transcriptase)とテロメア繰り返し配列の鋳型配列を持つhuman telomerase RNA (hTR)、TEP-1(telomerase-associated protein 、Hsp (heat shock protein) 90、p23とdyskerinの6つのサブユニットからなる複合体をとっている。血液細胞のテロメレース活性の調節機序を知ることは、造血幹細胞の体外増幅に関わるだけでなく、テロメレースを標的にした、分子標的治療の開発にも重要と考えられる。本総説ではテロメア・テロメレースの構造と調節機序について我々の研究を中心に最新の知見をまとめた。
- 2013-03-31
著者
関連論文
- 多発性骨髄腫に対する thalidomide 療法の効果に関与する因子と効果判定時期
- 血液細胞におけるテロメレースの調節機序と臨床への応用
- 2.原発性肺肉腫と思われた興味ある心臓肉腫の一例 : 第68回肺癌学会関東支部
- 異種抗原とテロメレースプロモーターを用いた癌特異的遺伝子治療の試み
- ビンデシンおよびプレドニゾロンを中心とした治療で完全寛解に入った好酸球増加を伴う急性骨髄性白血病の2例
- 胆嚢癌を併発したHairy Cell Leukemiaの1例
- レーザー光線のマウス造血幹細胞への影響に関する研究
- 後天性血友病A
- Telomere 長解析と, Telomerase, HER2/neu の発現による甲状腺癌の補助診断
- 成人急性骨髄性白血病の成績:単施設における後方視的検討
- 東京女子医科大学病院における造血幹細胞移植の後方視的解析
- 血液学におけるテロメアとテロメレース
- 特発性血小板減少性紫斑病症例における抗リン脂質抗体陽性の臨床的意義