社会的支援の増大と産業社会の転換─ なぜ支援サービスが日本で増加しているのか─
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概要
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支援サービスへの就業者数が、近年日本の産業社会の中で、増加傾向を示している。とりわけ、介護保険制度が創設されて以来、介護サービスの伸張は著しい。なぜ支援サービスはこのような増大傾向を示すのか。また、これによって、日本の産業社会はどのような変化を受けるのか。以上の論点について、この小論は追究している。 結論としてまとめるならば、支援サービス増大の理由には、三つのものがある。第一に、サービスの供給側に原因があるとする考えがある。サービス産業の増大が産業構造変化の原因となっており、中でも生産者サービスの増加が、支援サービスを始めとするサービス経済増大に影響を与えているという傾向を見いだせる。第二に、支援サービスの需要側からの理由が存在する。人口構造の変化が支援サービス増大を説明しているとされる。高齢化社会では、単身者世帯と高齢者世帯が増加しており、これらの世帯は特に社会的サポートを必要とする。第三に、支援サービスの産業特性そのものが、増大傾向を作り出しているとする。この考え方は、新たな社会分業論を検討するものである。現代の分業プロセスでは、産業構造の多様化が進んでいるが、この過程でサービスの専門特化が促進されることになる。このとき、専門特化が進めば進むほど、その周辺産業では支援サービスを中心とするサービス経済の増大する傾向が現れる。 現在、支援サービスの増大理由として、高齢化や家族機能の縮小などの需要要因を挙げる論者が多くなりつつあるが、需要増大だけでは説明のつかない問題が存在する。また、需要要因だけの議論に終止すると、かえって問題の本質を誤解させることになる可能性もある。需給の両条件が前提となることは認めるが、この小論は特に、生産者サービスの増大、さらにサービスの支援的産業特性などの供給側要因について注目している点に特色があり、さらに加えて、支援サービスというものが「全体の中の相対的な産業配置」によって決定されていることを明らかにしている。支援サービスの増大は、たしかに一つの産業の状況を指し示している。けれども、この状況は反転して、相対的で全体的な産業構成を経由して、むしろ産業社会全体を有機的に組み換える状況を作り出している。
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