インド仏教の諸論師は法華経をどのように読んだのか
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概要
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法華経は,東アジア仏教において最もよく読まれ経典の一つであるのに対して,インド仏教思想史における法華経の位置づけは十分に解明されていない.そこでインド仏教の諸論書における法華経の引用と同経に対する言及を分析すると,次のようにまとめることができる.インド仏教において最古の法華経への言及はNagarjunaの『菩提資糧論』における声聞授記のコンテキストに見られる.また同じ著者に帰されるSutrasamuccayaにおいても一乗を説く経典として法華経が引用されている.この認識がインド仏教思想史における法華経に対する最初のメルクマールとなった.続くBhavya,Candrakirti,Jnanagarbha,Kamalasilaらの中観派文献においてもこの認識に基づいて,法華経が言及されている.特にKamalasilaは一乗真実説に基づいて瑜伽行派の三乗真実説を批判する.ただしSantidevaのSiksasamuccayaは一乗思想に限定せずに同経を引用し,それは同じアンソロジー文献であるDipamkarasrijnanaのMahasutrasamuccayaにおいても踏襲される.瑜伽行唯識派文献では,MahayanasamgrahaやMahayanasutralamkaraにおいて一乗思想に関する言及を見ることができるものの,三乗真実説のコンテキストにおいて言及されるものである.すなわち同経は意趣をもつものと理解されており,Sthiramatiに至るまで,同派においては法華経を含めた一乗思想は積極的に受け入れられるものではなかったと言える.ただしRatnagotravibhagaにおいては,異なるコンテキストでの言及である.アビサマヤ文献では,法華経に対する態度は一様ではない.Arya-Vimuktisena,Haribhadra,Abhayakaraguptaなどの中観系の注釈書においては,声聞授記・一乗のコンテキストにおいて言及される.特にHarubhadraは,Kamalasilaと同様に,瑜伽行派の三乗真実説に対する批判として法華経に言及している.その一方で,Dharmamitraは法華経を引用するものの,一乗や声聞授記に対する言及はない.このようにアビサマヤ文献においては,その注釈者の思想的位置により異なる読み方がなされている.
- 2011-03-25
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