金融ベンチャーによる米国サブプライム市場への参入の意義
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
米国のサブプライム市場(信用リスクの比較的に高い消費者への融資市場)が真空領域であった90年代前半、新規参入したサブプライム・レンダーにとって残高を増やすことは決して難しくなかった。特別な戦略を練らなくとも競合他社と同じサービスを横並びで展開すれば成長の波に乗ることができた。しかし、参入が相次ぎ競合状況が激化した90年代後半には、生き残るための競争戦略がサブプライム・レンダーに必要となってきた。当初、サブプライム層を相手にした自動車ローン業者は30%近傍でサービスを提供していたが、競争の激化とともに顧客に提示される金利は下降傾向を辿った。こうした傾向は自動車ローン市場だけでなく、サブプライム層を顧客とした他の市場も同様であった。同時に、競争の激化は加熱した顧客の争奪戦と、それに伴う期限前弁済率の増加を導いた。特に、証券化を利用して資金調達していた一部のサブプライム・レンダーは競争の激化に伴い、過去に発行した証券化商品の債権内容に内包されていた会計上の問題を露呈させ始めていた。信用力の高いプライム層への貸出債権の場合、デフォルト率や期限前弁済率といった変数は証券化商品を取巻く外的要因の変化に対して比較的安定しているが、サブプライム層への貸出債権は極めて不安定な要因を孕んでいた。証券化の会計処理において最劣後部分の現在価値(適正価値)の計算が最も難しいと言われているが、本来サブプライム・レンダーはデフォルト率や期限前弁済率をプライム層向け融資よりも保守的に見積もるべきであった。しかし、新規参入した多くのサブプライム・レンダーは当時の経営環境が将来も継続するという前提に立脚していた。98年の夏に起きたロシア危機を発端とする債券市場の混乱により、投資家はリスクの高い債券市場から引き上げ、サブプライム・レンダーの発行する証券化商品への投資は一斉に見送られた。その結果、証券化を用いて融資を行ってきたサブプライム・レンダーの収益性は急速に悪化しだした。証券化のスキームは競争が激しくなる過程で充分なリスク管理力を持たない業者の淘汰を促す引き金ともなったが、サブプライム・レンダーの新規参入を促す要因であった点は意義深い。確かにリスク管理を怠ったサブプライム・レンダーは市場から淘汰されたが、徹底した差別化や効率化の追求を実現した一部の企業は今日でも伝統的な金融機関と互角に戦っている点に注目すべきであろう。
- パーソナルファイナンス学会の論文
- 2002-11-01
著者
関連論文
- 酒造業界における水資源確保に関する実態:産学連携プロジェクトと連動して行われた課題解決型学習による成果
- 調査結果の概要 消費者のローン利用に関するアンケート調査の分析--2007年と2008年の時系列比較調査
- 消費者のローン利用に関するアンケート分析(平成18年調査)
- 消費者ローン現在利用者の時系列変化に関する分析
- 消費者ローン現在利用者の時系列変化に関する分析Part3
- 消費者のローン利用に関するアンケート分析(平成18年調査)
- シンポジウム
- 金融ベンチャーによる米国サブプライム市場への参入の意義
- 消費者金融市場の壊滅により再び活発化したヤミ金融に関する調査
- ヤミ金利用の実態に関する調査報告
- 総量規制の影響に関する実証分析
- 総量規制の影響に関する実証分析 : 追加データによる検証