サブアトランティック期末葉(西暦0.3-0.6千年)の気温変動と世界史 : 完新世の人類学(12)
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概要
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本論では前稿(佐々木, 2009)に続き,西暦4〜 6c.の300年間の気温変化と世界史の対応関係を記述する。先行期末の寒冷化に続いた当期の全体的低温は高地,高緯度地帯資料に明らかだが,当期中の気温のゆらぎも無視できない。260年以来の寒冷化は当期冒頭に完新世中間値よりやや高い水準で停止し,その後には弱い温暖化傾向があり,4c.は軽度の高温期だった。しかし,400年頃に急激な寒冷化があり,千年間以上なかった低温が出現した。この低温が440年直前まで続いた後に急激な温暖化があり,6c.前葉にかけては軽度の高温期だった。533年頃の寒冷化で始まった低温は5c.前半の低温よりは軽度だったが,575年頃にも寒冷化があり,後続期冒頭まで中高緯度地帯では低温の影響が強かった。当期にはユーラシア東西端で「民族大移動」が進行した。寒冷化の悪影響の強かった高緯度地帯から男性主体の武装先住民が領地を与える(農園を継承,新設させる)有力者のいる地点まで南下し,定住した上で機会に恵まれれば小王国を建設した(小林,1999; p.164)のが「民族大移動」だったから,先行期末からの大移動は気温のゆらぎに対応して断絶的に進行した。「ゲルマン民族」の複数回移動が, (i) 先行期末から当期冒頭の寒冷化, (ii) 400年の寒冷化と後続低温,および (iii) 533年の寒冷化と後続低温に対応し,温暖化期と後続の軽度の高温期には終息したことは特別な説明を要しない。なお,前稿と同じく,(鈴木,2000;p.n)は(S.n)と表記する。本項の最後の部分では三つの主題を扱う。(17.7)「日本列島の状況」では古墳時代を中国系農園主と交替した半島系農園主が支配し,輸出先の中国の南北分断下での大和水銀の生産再拡大の時期だったと考える。(17.8)「人類の海上進出」では人類の浸水移動の不可能性の一般的解決手段だった丸木舟の不安定性と縦帆技術の欠如が海上交通の発達を長期的に抑制したことを指摘する。(17.9)「初期金属器文化」では金石併用,青銅,初期鉄器文化の周知されていない弱点を述べ,金属器文化の通説的概念が発達した鉄器文化のみによくあてはまることを記述する。(17.10)「完新世前半の気温変動」ではPreboreal,Borealおよび特にAtlantic期の古気温を Camp Century profile に従って概説する。
- 2010-03-15
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