子どもたちの多元的自己と同調 : 新しい物語創造の可能性を探って
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概要
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子どもたちの規範意識が低下していると言われる。一方,相談室で子どもたちとかかわっていると,彼らが示す友達に対する同調性の強さに驚かされる。決して彼らは,勝手気ままに生きているわけではなく,周囲に同調しながら生きているのである。その背景には社会における「大きな物語の喪失」がある。小論においては,はじめに,相談室でのひとつのエピソードを取り上げ,そのエピソードを解釈することを通して,子どもたちの自己や世界を明らかにする。そこからは,彼らが同調の物語をつくりだすことによって,その空間を居場所に変えている様子が理解できる。同調の物語は孤立化を防ぎ,居場所を作りだすのである。だが同時に同調の物語は非日常性を特徴とし,継続性や他者性を備えていない。したがって同調の物語を生きる自己は多元的自己なのである。その後,このような子どもたちの世界の解明に基づいて,道徳教育の可能性を探る。そこでは,自己決定システムの限界を示すと同時に,同調の物語を組み替えていくことができるかどうかを模索する。結論としては,価値項目の押しつけは有効ではないこと,一方日常性を重視した平明な道徳教育が有効であることが導かれる。そして,具体的には,対話を重視し,自己の負性に丁寧につき合うことができる場をつくりだすことが重要であることが明らかになる。
- 日本教育方法学会の論文
- 2004-03-31
著者
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