Gibberifera属(鱗翅目:ハマキガ科)の再検討と4新種の記載
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概要
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Gibberifera属は旧北区と東洋区に分布している属で,前翅の斑紋と色彩が非常に類似した種から構成される.今まで5種が記録されていたが,ヨーロッパとアジアの標本を再検討した結果,新たに4新種を含む10種が認められた.本属は,1)前翅に翅頂から翅の4/5を占める大きな白斑(中帯と肛上紋からなる)を持つ, 2)雄交尾器のcucullusの腹方基部に有柄の太くて丈夫な刺毛を持つ,という2つの固有新形質を有する.本属は交尾器の類似によりEpinotia属に近縁であると考えられるが,両属の共有新形質は判明しなかった. 1. Gibberifera simplana (Fischer von Roslerstamm)ウスキシロヒメハマキ 本種は外部表徴ではhepaticanaに類似するが,区別点はhepaticanaの項に記述した.寄主植物:Populus tremula L.ヨーロッパヤマナラシ(ヤナギ科).分布:ヨーロッパ,ロシア(ヨーロッパ部,極東部),中国北部,日本. 2. Gibberifera glaciata (Meyrick), rev. stat.本種はDiakonoff(1964)によりsimplanaの亜種として扱われた.しかし, simplanaとは, 1)頭頂部が暗褐色である, 2)前翅の中帯の内縁がまっすぐである, 3)uncusは幅広く2叉する, 4)vesicaに1本の非脱落性cornutusを持つことにより区別され,独立種であると認められる.検討した台湾の標本は他の地域のものと比べて大型であるが,雌雄交尾器に違いは認められなかった.寄主植物:Salix sp. (ヤナギ科)(新記録).分布:パキスタン,インド,ネパール,タイ,台湾,中国西部(インドを除いた地域からは新記録). 3. Gibberifera angkhangensis Kawabe & Nasu, n. sp.本種はglaciataと外部表徴では類似するが, 1)頭頂部が黒褐色である, 2)vesicaに2本の非脱落性corunutiを持つ, 3)valvaのbasal openingの後方端に有刺毛葉片を持つ, 4)sterigmaは小さく卵形であることにより区別できる.分布:タイ. 4. Gibberifera monticola Kuznetzov本種は1雄によって示されている.交尾器はsimplanaのものに類似するが, 1)uncusは2叉しない, 2)vesicaに2本の非脱落性cornutiを持つことにより区別できる.分布:中国南部. 5. Gibberifera nigrovena Kawabe & Nasu, n. sp.本種は半透明な後翅とその翅脈が黒化していることにより,本属の他の種と容易に区別できる.本種の雄交尾器はmonticolaのものに類似するが, vesicaに非脱落性cornutusを持たないことにより区別できる.分布:ネパール. 6. Gibberifera obscura Diakonoff本種は前翅の斑紋が不明瞭な個体に基づいて記載されたが,今回検討した標本は前翅の斑紋が明瞭であった.本種はcucullusの内縁に突起を持つことにより,本属の他の種と区別できる.寄主植物: alix sp.(ヤナギ科)(新記録).分布:パキスタン(新記録),ネパール. 7.Gibberifera hepaticana Kawabe & Nasu, n. sp.ニセウスキシロヒメハマキ(新称)本種は川辺(1982)によりsimplanaの個体変異として図示されていたものである.しかし, simplanaとは, 1)頭頂部が灰暗褐色である, 2)前翅の中帯の内縁がまっすぐである, 3)uncusは浅く2叉する, 4)vesicaに2-3本の非脱落性cornutiを持つ, 5)sterigmaは小さく,側後方に尖った角を持つことにより区別できる.分布:中国西部,日本. 8. Gibberifera mienshana Kuznetzov本種の雄交尾器はhepaticanaのものに類似するが, vesicaに7本の非脱落性cornutiを持つことにより区別できる.分布:中国中央部,ロシア極東部. 9. Gibberifera alba Kawabe & Nasu, n. sp.本種は外部表徴ではglaciataに類似するが, 1)vesicaに非脱落性のcornutiを持たない, 2)卵形のcucullusを持つことにより区別できる.また,雄交尾器はhepaticanaとmienshanaのものに類似するが, vesicaに非脱落性cornutusを持たないことにより区別できる.分布:ネパール. 10. Gibberifera similis Kuznetzov本種は1雌によって示されている.本種は両側に折り目を持った長方形のsterigmaを持つ.分布:中国中央部.
- 日本鱗翅学会の論文
- 1994-06-30
著者
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那須 義次
Osaka Plant Protection Office
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川辺 湛
Biological Laboratory, Juntoku Gakuen
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川辺 湛
Biological Laboratory Juntoku Gakuen
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