日本産食〓性マダラメイガの1新種
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概要
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メイガ科幼虫の多くは植食性であるが,一部肉食性の種がいることが報告されている.マダラメイガ亜科では,Laetilia coccidivora(COMSTOCK)が,カイガラムシ科のLacanium属などの昆虫を捕食する(SIMANTON,1916)ほか,Phycita dentilinella HAMPSONが,他の鱗翅類の蛹を(AYYAR,1929),Euzophera cocciphaga HAMPSONが,カイガラムシ科のAspidoproctus xyliaeの卵と若令幼虫を(AYYAR,1929),Cereobata coccophthora TURNERが同じくカイガラムシ科のEriococcus属を(CLAUSEN,1940)それぞれ捕食することが報告されている.また,本来植食性のCryptoblabes gnidiella(MILLIERE)はMalayaではキジラミ科のAleurocanthus属を捕食することがわかっている(CLAUSEN,1940;HEINLICH,1956).LOPEZ(1930)及びRUEDAとCALILUNG(1974)は,フィリピンにいるThialella sp.が,サトウキビの害虫,Ceratovacuna(-Oregma) lanigera (ZEHNTNER)の天敵であることを報告している.アブラムシを捕食するマダラメイガとしてはこれが唯一の記録である.筆者の一人,大原は,鹿児島県加世田市で,ホウライチク(Bambusa nana var. nominalis MAKINO)につくタケツノアブラムシ(Pseudoregma bambucicola TAKAHASHI)を捕食しているメイガ科幼虫を発見し,室内で蛹化・羽化させた,これらの標本を調べた結果,以下に述べる特徴から,マダラメイガ亜科のCryptoblabes属の新種であることが判明したので,その記載と簡単な生活史の記述を行った.成虫は翅がやや細長く,灰白色の前翅前縁部を除き,淡い灰褐色である.前翅には小さな点刻状の条斑を有する.前後翅ともM_2脈とM_3脈は基部で融合することなく離れている.雄の触角は,他のCryotibkabes属の種と異なり基部に角状突起をもたない.雄交尾器では,本属の特徴になるuncus先端の二叉状態が認められ,同様に雌でもcorpus bursaeに大きな1本のsignumがある.幼虫でもC型cryptoblabes属特有の前胸背楯の発達がみられ,側域に拡がってL刺毛群及び気門がこの中に含まれる,本種幼虫は,ホウライチクの稈の部分に密生しているタケツノアブラムシのコロニー内に細長い,糸で綴った巣を作り,内部におり,時に巣外に出てアブラムシを捕食する.秋期には老熟幼虫は巣の内部や,タケの稈と古い托葉との間等に入り込み,厚い繭を綴ぎ蛹化,そのまま越冬に入ると思われる.これらの蛹は2月には羽化していなかったが,4月中旬にはすべて羽化していた.そのころから夏期にかけては,タケツノアブラムシの個体群はほとんど見られなくなり,本種も発見出来なかった.タケツノアブラムシは通常秋期から翌年の春先にかけては多数の個体が見られるが,夏期にはほとんどいなくなるため,本種が常にタケツノアブラムシを食餌としているかどうかは不明である.本種は,上で挙げた,翅脈,雌雄交尾器,幼虫の前胸背楯などの形態からCryptoblabes属に入れたが,東洋区に分布するThialella属も類似した翅脈と雄の触角を有する.今のところ,Thialella属の成虫交尾器や,幼虫の特徴がはっきりしていないので,本種の所属についてはこの2属の研究が終わった段階で再検討する必要があると思われる.
- 日本鱗翅学会の論文
- 1982-12-20
著者
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吉安 裕
Laboratory Of Entomology Faculty Of Agriculture Kyoto Prefectural University
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吉安 裕
Laboratory Of Applied Entomology Faculty Of Agriculture Kyoto Prefectural University
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大原 賢二
Entomological Laboratory Faculty Of Agriculture Kyushu University
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