コノハチョウ属Kallimaの再検討 : I. 属の分類
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概要
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コノハチョウ属Kallimaの全種(アジア産7種,アフリカ産4種)の翅脈相,雌雄外部生殖器の比較形態学的研究を行い,本属に分類学的再検討を加えた.その結果,従来受け入れられてきた本属の分類体系は種レベルのみならず,属レベルにおいても多くの問題を含んでいることが明らかになった.本報文では属レベルの分類学的再検討の結果を報告した.その概要は次の通りである.1."Kallima"属は多系統的であり,属レベルで異る4群を含んでいる.2.アジアの種群は固有の新形質,(1)gnathosは1対の細い帯状の骨片となりmanica上を体前方向に長く伸長する,(2)juxtaの背面部より後方に長く伸びる1対の遊離突起が生じる,(3)uncus先端は深く2叉する(horsfieldiではuncus先端部は中央部の長い膜質のスリットにより左右の骨片に分離されている.この状態は単純なクチバシ状のuncusから深く2叉したuncusへの移行型と考えられる),を持っており,これらは単系統群(属)としてまとめられる.Kallimaの模式種paralektaがこの群に含まれるためアジアの種にKallimaが適用される.3.種ansorgeiとcymodoceは,(1)gnathos-juxta-sacculusが部分的に融合し,複雑な複合構造を作る,(2)良く発達したcochlearを備える,(3)harpeの後縁は幅広く深くえぐられる,という新形質を持っている.これらの新形質はJunonia属の固有新形質と考えられるものであり,両種がJunoniaに属することは疑いもない.種ansorgeiとcymodoceはJunonia属に移された.4.種jacksoniは,(1)uncusに良く発達したfenestrulaを備える,(2)gnathos腹端に微小な針状突起を多数生じる,(3)phallusのsuprazonal sheathの骨化は非相称的であり,perivesical areaは左側に位置する,という3つの新形質を持っている.これらの新形質は本種以外ではタテハチョウ亜科の,アフリカ特産で1属1種のチョウとして知られるCatacroptera cloantheに見出された.種jacksoniとcloantheはこれら3新形質を固有新形質とする単系統群(Catacroptera属)を構成すると考えられ,jacksoniを同属に移した.5.種rumiaは翅脈相,雌雄外部生殖器のいずれにおいても他の種と大きく異っていた.特に雄外部生殖器は特異で,類似の構造を持った種はタテハチョウ科の中には知られていないと思われた.本種を模式種として新属Kallimoidesを創設した.現時点では本種のタテハチョウ科における系統的位置は不明である.将来の研究に待ちたいが,特に幼生期の解明が期待される.
- 1984-03-20
著者
-
白水 隆
Kitakyushu Museum Of Natural History
-
中西 明徳
Biological Laboratory College Of General Education Kyushu University
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