フィリピン産蝶類数種の幼生期と休眠について
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概要
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1977年5月20日より7月20日まで,国立科学博物館によるフィリピン動物調査に参加し,主としてアゲハチョウ科の卵・幼虫を採集,飼育したので,その結果について報告する.1.フィリピンモンキアゲハの卵・幼虫は,ルソン島北部山岳においてはサルカケミカン類,ハマセンダン類,およびミカン類のカラマンシー,ポメロから,ミンダナオ島のアポ山ではミカン類から得た.4齢幼虫はすべて黒色の部分が著しく,5齢幼虫の斜帯は両方とも連続であった.2.フィリピンシロオビアゲハの卵・幼虫はルソン,ミンダナオ,パラワン各島においてカラマンシーその他のミカン類から得た.3.オナジアゲハの卵・幼虫は,上記3島で同じくミカン類から採集したが,パラワン島では,マメザンショウMicromelium minutumより幼虫を得,産卵も目撃した.4.アカネアゲハの幼虫は,北部ルソンで野生のミカンAtlantia spinosaより得たが,ミンダナオ島スリガオ地方ではカラマンシーより多数の5齢幼虫と蛹を採集した.5.べンゲットアゲハの古い1♀をパオアイで採集して,ミカン類に数卵を産ませたが,1卵が発生したのみで,それも孵化しなかった.6.パラワンアゲハの幼虫は,パラワン島においてレモンより採集した.7.キべリアゲハの幼虫は,北部ルソンでLitsea sp.より採集した.8.フィリピンキシタアゲハ(マニラ産)は成虫よりArstolockia tagalaで採卵に成功し,南山大で全期間,日本産のウマノスズクサで飼育することに成功した.9.パラワン島産のペニモンアゲハも,成虫よりA. tagalaで採卵に成功し,若齢より南山大で飼育し,中齢より日本産ウマノスズクサに移したが,成虫を得ることができた.10.ルソン島北部山岳では,今回の調査で到達した最北部のボントク付近まで,キャべツ畠が多く,どの畠でもタイワンモンシロチョウが見られたが,野生又は半野生の食草としては,夕ネツケバナ,オランダガラジを発見した.11.パラワン島の原生林で,カキ科植物のDiospyros discolorからユー夕リアの幼虫1頭を発見し,その植物でしばらく飼育したが,蛹化にいたらず死亡した.12.フィリピンシロオビアゲハ,アカネアゲハ,パラワンアゲハ,オナジアゲハを南山大学の23℃,1日11.5時間照明の飼育室で飼育し,非常に低い割合ではあるが,休眠蛹が生じることを確認した.また北部ルソンで幼虫を採集し,現地し蛹化したキべリアゲハ1頭が休眠蛹となったことを確認した.フィリピンでは乾期にこれらの蝶は,成虫の個体数は少なくなるが,全く見られなくなることはない.したがって恐らくこの休眠は乾期に適応して,集団の中の一部の個体が休眠に入る部分的な蛹休眠であろうと推定される.
- 1978-12-01
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