ネパール産アゲハチョウ科の生態
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概要
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1979年9月17日より11月18日まで,国立科学博物館によるネパール動物調査に参加し,主としてアゲハチョウ科の卵・幼虫を採集し,また成虫についてもアゲハチョウ科に留意して採集した.採集した卵・幼虫は,一部の雌成虫より採卵した卵とともに,調査中飼育し,帰国後は南山大学において23℃,1日11.5時間照明の下で飼育を続けたので,その結果について報告する.1.シロオビアゲハの成虫は調査期間中は標高1,600mまで発見できたが,ダランバザール付近以外は個体数は多くなかった.卵・幼虫は標高1,300m以下の地域でミカン類(Citrus)およびZanthoxylum alatumより採集できた.飼育した幼虫はカトマンズでミカンに袋かけしたものもふくめ大部分休眠蛹となった.2.モンキアゲハの成虫は1,800mまで見られ,終齢幼虫は2,450mまで発見できた.食草はZ.alatum, Z.armatum, Toddatia acuteata(サルカケミカン),Murraya koenigia, Aegle marmelosとミカン類であった.幼虫は殆んど休眠蛹となった.3.11月6日ダランバザールで採集したモンキアゲハ1♀より30卵を得,ミカンで飼育したところ,モンキアゲハとシロオビアゲハの間のF_1雑種2♂2♀とモンキアゲハ6♂5♀が羽化した.このモンキアゲハの雌は野外でシロオビアゲハとモンキアゲハの両方の雄と交尾し,受精に当って両種の精子が使われたものと思われる.4.クロアゲハは成虫・幼虫とも1,700m位まで発見できた.食草はZ.alatum, Z.armatumおよびミカン類で,カトマンズでの袋がけ飼育をふくめ大部分が休眠蛹となった.5.クジャクアゲハの成虫は1,600mまで,幼虫は2,300mまで発見できた.食草はEvodua fraxinifoliaとZ.alatumで,飼育では半数近くが休眠蛹とはならなかった.6.オオクジャクアゲハ.東ネパールの2,300mの地点でE.fraxinifoliaから5齢幼虫5頭を発見したが,全部休眠蛹となった.7.オナシアゲハ.1,200m以下の低い地域でのみ成虫・幼虫・卵を発見できた.食草はミカン類で大部分休眠蛹となった.8.タイワンモンキアゲハ,ナガサキアゲハ,キアゲハ,キベリアゲハは少数発見できたのみであった.9.Graphium属の成虫は少なく,幼生期の調査は行わなかった.10.ヒマラヤヒメウスバシロチョウはルクラ(2,830m)で多かった以外はわずかしか発見できなった.東ネパールのバサントプールとタプレジュンの間のグファ3,000mで10月29日の2♂の採集は珍らしい記録ではないかと思われる.幼虫は,どこでも発見できなかった.11.ウマノスズクサ類はかなりよく茂っていたが,幼虫は見付らず,ウマノスズクサ類を食うアゲハチョウ科の成虫も殆んど発見できなかった.12.ネバールは沖縄県とほぼ同緯度であり,標高1,300mのカトマンズでも霜は下りず,殆んど一年中チョウの成虫活動は可能である.しかし10月11月の調査では蝶の成虫は非常に少なく,この頃のアゲハチョウ科の幼虫が,低地のものもふくめ,多く休眠蛹となることは,乾期に適応する休眠と思われる.
- 1981-02-20
著者
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