ヒマラヤ産蝶類28種の染色体の研究 : アゲハチョウ科・シロチョウ科
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概要
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1. 1963年6月から8月にかけて実施された日本鱗翅学会のヒマラヤ蝶蛾調査において採集された蝶の一部の精巣をP. F. A. -3液によって固定して日本に持ち帰った。それらより通常のパラフィン法によって切片をつくり,ハィデンハィンの鉄へマトキシリンとライト・グリーン染色によって作製したプレパラートを用い,精母細胞によって染色体の研究を行った。そのうちアゲハチョウ科とシロチョウ科の結果を報告する。2. 確認し得たのは12種のアゲハチョウ科と16種のシロチョウ科の染色体数と各染色体の大きさであり,うち14種は今回はじめて研究された種である。これらの和名を第一表に示されている学名の順序に記すと次のようである。なお()は図鑑に記された和名のないものである。キシタアゲハ,(ジャコウアゲハの1種),オオべニモンアゲハ,キべリアゲハ,オナシアゲハ,キアゲハ,クジャクアゲハ,シロオビアゲハ,クロアゲハ,モンキアゲハ,タイワンモンキアゲハ,ルリモンアゲハ,エレクトモンキチョウ,モンキチョウ,(東ネパールの最高所のモンキチョウ),キチョウ,ギンモンウスキチョウ,ムモンウスキチョウ,ウラナミシロチョウ,メスシロキチョウ,ツマべニチョウ,(デリアス属の1種),(同左),アカネシロチョウ,オオモンシロチョウ,タイワンモンシロチョウ,タイワンスジグロチョウ,チョウセンシロチョウ 3. アゲハチョウ科の染色体数は一般に半数で30,モンキチョウ・キチョウ・ウスキチョウ類のそれは31,シロチョウ類は25・26である場合が多く,今回の研究でもオオモンシロチョウがヨーロッパ産のオオモンシロチョウと同じく15であった他には例外はなかった。その他はメスシロキチョウ28,ツマべニチョウ17, Delias descombesi 27-32,タイワンスジグロチョウ22-24であった。4. 日本産キアゲハの染色体数は半数で31であるが,ヒマラヤ産の今回はじめて調査した1固体は30であってヨーロッパの多くの亜種と同数であった。ヨーロッパでもイギリスのキアゲハは31であり,フィンランドのそれは30-33であることが知られており,日本産とイギリス産のキアゲハの第1代雑種における染色体の対合が完全であることから考えて(未発表),染色体数n, 31のキアゲハが祖先形で,新しく進化したn, 30のキアゲハが31のキアゲハを駆逐した結果,現在31のキアゲハが日本とイギリスに分布していると仮定することもできる。いずれにしろ,台湾はじめ各地のキアゲハの染色体数を知ることが望ましく,またキアゲハのみならずその他の地方的に染色体数に変異のある種や近縁種群の染色体数をくわしく調査し,交配によって染色体の相同性を調ペることにより,進化学上多くの新しい事実が発見されると考えられる。
- 1965-06-01
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