社会科学と社会政策 : ある大統領諮問委員会の顛末
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概要
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自分が見たいものを見る,読みたいものを読むといった個人の自由が社会の安寧,秩序に反するとの理由で制限,制約をうけることがある.「個人の自由といっても,それは無制限に許されるものではない」というのが,制限論者の主張である.この主張の是非はともかくとして,一応それを受け入れるとするならば,次に問題となることは,その線引きをどのようにするのか,ということである.特に人びとが「黒か,白か」をめぐって厳しく対立しているような場合には,線引きは難航する.その一例として,***グラフィー(porunography)の問題があげられる.***グラフィーをめぐっては,規制の強化を主張する人たちと,表現の自由,思想の自由を盾にして規制反対を唱える人たちの間で激しい論争が繰り返されてきた.そこに社会科学者が関与することになったのは,ジョンソン大統領のときに大統領諮問委員会(Commission on Obscenity & Pornography)が設置され,委託研究という形で専門家の意見が求められたことによる.その後この委員会は「***グラフィーは成人にとって無害である」との結論を導き出し,それに基づく答申案をまとめて(Lockhart Report),大統領と議会に提出することになった.しかしながら,それを受けた当時のニクソン大統領及び議会は,「この内容はアメリカ国民の道徳心を堕落させるものである」と手厳しく批判したうえで,答申の受諾を拒否してしまったのである.こうして200万ドルの予算と2年間の歳月を費した委員会の報告は(1巻の要約と9巻からなる研究報告書),悪評のうちに世間から葬り去られてしまったのである.それと同時に,社会科学者(心理学者,行動科学者)はその研究成果に基づいて社会政策の立案に参画するというまたとないチャンスをフイにしてしまったのである.本稿では,大統領諮問委員会の答申が何故このような結末を迎えることになったのか,この種の社会的争点の解決に心理学の手法を適用することが果して妥当であったのか,そこから得られた知見は一般の人たちにどのように受けとめられたのか,といった問題について,この諮問委員会(Lockhart Report)の活動を辿りながら考えていくことにする.
- 慶應義塾大学の論文
著者
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