労働市場調整の理論 : 日米比較に対する正しい説明の探求
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概要
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本論は,景気後退過程に焦点をあてながら,日米の賃金・雇用・時間に関する労働市場の調整メカニズムを理論的に分析する。景気後退過程に焦点をあてるのは,両国のメカニズムの相違がその過程において顕著になるからである。上記メカニズムに関する日米の比較は実証的にはよく知られているけれども,理論的にはほとんど説明されていない。我々は調整メカニズムを分析するとき,日米の労働市場における制度的特徴の違いを考慮にいれる。モデルはインサイダー・アウトサイダー・モデルに類似している。日本を基準にした主要な結果は以下の通りである。1.日本の安定的雇用を説明する伝統的な伸縮賃金説は,その非現実的仮定のために説明自体は誤りである。日本の安定的雇用は,リスクシェアリングの段階にあける(実質)賃金の調整によってもたらされる。2.日本の伸縮的時間は,リスクシェアリングによって雇用が不変に維持されるために生じる。それゆえ,日本では時間が伸縮的であることが雇用を安定的にするとよくいわれるが,因果の方向はその逆である。3.景気がリスクシェアリングの段階を越えてさらに悪化すると,日本でも雇用が調整され,時間は一定に維持される。4.以上から,日本の景気後退過程では,まず時間が十分に調整され,それでも足りなければ雇用が調整されることがわかる。5.日本での雇用調整は必ずしも日本的雇用慣行の哀退を意味しない。雇用が調整されるか否かは,日本的雇用慣行の下でさえ景気の悪化の程度に依存する。さらに我々は,低くて安定的な日本の失業率を説明するひとつの仮説を提示する。最後に我々は,仲縮的(実質)賃金がマクロ・パフォーマンスに及ぼす影響に関する含意を引き出す。
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