男女共同参画の物憂いため息 : 労働と選択の視点から
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概要
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男女共同参画社会という言葉が、社会の潮流を形作るようになったといわれて約10年。女性たちが労働に対して抱くイメージは変質した。しかし彼女らにとって、男女共同参画社会はどのように「経験」されているのだろうか。男性社会が強いてきた理不尽さは、どの程度解消したのだろうか。男女共同参画社会といわれつつも、多くの女性たちによって、一見したところ長い呼吸と区別がつきにくく、しかし確実になにかに対する希望をあきらめつつあるような、そして吐息の延長線上にあるような、かすかで物憂いため息が、あちらこちらで吐かれ続けているのは、なぜだろうか?主に女性向けコミックにおいて、近年男女共同参画社会を反映したファンタジーが生産され、人気を集めている。それらのファンタジーは、仕事(労働)、性愛、男性による承認、という3つの要素の間におけるギャップがうみだすものである。しかしその背後には「女々格差」と階層性が潜んでいる点には注意が必要である。さらに社会的には恵まれた条件の女性においても、公的領域と私的領域の競合があり、人生の重要な選択が迫られる場面では、多くの場合、私的領域が優先される。このような選択の場面こそ、女性を公的領域、私的領域の双方において無力化する契機となっている。それはたとえば女性医師のような「エリート女性」においても例外ではない。一方でネオリベラリズム的な労働力の再編成が進むなかで、周縁化された男性と成功する女性という対比が出現しているが、それをもって女性の社会進出が果たされたと評価することはできない。同じ環境、階層に属する男女においては、依然として性別による格差が存在するからである。公的領域における制度的平等の達成のみでは、真の男女共同参画は実現しない。男女をめぐる諸条件が不平等な状態での「共同参画」は、そのしわ寄せを女性にもたらしてしまうからである。男性社会は、この制度的平等からは窺い知れない女性の選択の矛盾、それにともなう「ため息」に耳を傾け、自らの利害を再検討し、是正する必要がある。
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