鉛によるポルフィリン代謝異常に及ぼすエチルアルコール摂取の影響
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概要
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鉛中毒による骨髄系ヘム・ポルフィリン代謝異常に対するエチルアルコールの相加あるいは相乗効果の有無を明らかにするために,家兎を用いて実験を行なった.(A)対照,(B)エチルアルコール投与,(C)鉛投与,(D)鉛およびエチルアルコール投与の4群に分け,実験期間中および終了後に各種のポルフィリン代謝に関する酵素,中間代謝物質等を測定した.エチルアルコールは約6ml/kg(約18ml/羽),週6〜7回,計60回,経口投与.鉛は0.5mg/kg,隔日週3回,計28回,静注投与した.なお,これら4群のほかに,(C')高濃度鉛投与群については,一部の項目のみ測定を行なった(鉛は15mg/kg,週2回,計12回皮下注,および2mg/kg,週2回,計7回静注投与).骨髄ALA-S活性は,対照のA群に比べD,C'群に明らかな増加が見られた(p<0.01,p<0.05).C群ではA群に比べ,一見増加の様相が見られたが,有意差は認められず(0.1<p<0.2),B群ではA群に比べ有意差は見られなかった.また,C,D群間には明らかな差は見られなかった.Pb-B,骨髄中全ポルフィリン量,FEP,ALA-U,CP-Uは,いずれもA群に比しC,D群に増加が見られたが,エチルアルコール単独投与のB群ではA群に比べ増加は見られなかった.C,D群間の比較では,CP-UおよびALA-UにおいてD群の増加が見られた.ALA-D活性は,末梢赤血球,骨髄ではA群に比べC,D群に明らかな低下が(いずれもp<0.001),肝ではD群にのみ低下の傾向が見られた(0.05<p<0.1).また,いずれの場合も,C,D群間の有意差は見られなかった.なお,ALA-D活性の阻害程度は末梢血で最も大きく,次いで,骨髄,肝の順であった.血漿中全ポルフィリン量は,A群に比べC,D群にごくわずかの増加が見られるにとどまり,肝のALA-S活性,肝の全ポルフィリン量,血清中GOT,GPT等では群間に有意差は見られなかった.以上の結果より,本実験ではエチルアルコールによる著明な肝障害は見られず,一方,鉛とエチルアルコールの同時投与群でも,鉛による骨髄性のポルフィリン代謝異常を示す所見が前面に出ており,エチルアルコールがこの鉛による骨髄性ポルフィリン代謝異常に直接関与していることを示唆する成績はわずかにCP-UおよびALA-Uに見られるのみであった.この鉛とエチルアルコール同時投与によるCP-UおよびALA-Uの増加の原因については,本実験では明確に結論づけることはできなかった.しかし,肝,腎のポルフィリン排泄能にエチルアルコールが何らかの影響を与えていることも推察され,この点については,今後検討すべき課題と考える.
- 社団法人日本産業衛生学会の論文
- 1988-03-20
著者
-
宮北 隆志
熊本大学医学部衛生学講座
-
宮北 隆志
熊本学園大学社会福祉学部
-
原田 幸一
熊本大学医学部保健学科検査技術科学専攻
-
三浦 創
銀杏短大
-
大森 昭子
熊本大学医学部衛生学講座
-
原田 幸一
熊本大学医学部附属病院 神経精神科
-
宮北 隆志
熊本大学医学部衛生学
-
三浦 創
熊本大学医学部衛生学教室
-
三浦 創
熊本大学 衛生学
-
大森 昭子
熊本大学医学教育部環境保健分野
-
原田 幸一
熊本大学医学部保健学科情報解析学講座環境病原検査学分野
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